あの会社の新人は、なぜ育つ?「若手のやる気に火をつける」指導術

ビジネス

公開日:2018/5/9

『若手社員を一流に変えるディップの「最速育成法」 あの会社の新人は、なぜ育つのか』(藤沢久美/ダイヤモンド社)

 日本には数多くの企業があるが、どの企業にとっても重要な経営課題に「人材の確保」があるだろう。良い製品やサービスを作るにしても、それらを営業するにしても人材がいなければ企業活動は始まらない。いわば、企業に所属する人材の質そのものが企業価値といっても過言ではない。では、どうすれば良い人材を確保することができるだろうか。

『若手社員を一流に変えるディップの「最速育成法」 あの会社の新人は、なぜ育つのか』(藤沢久美/ダイヤモンド社)では、アルバイト求人情報サイト「バイトル」や派遣情報サイト「はたらこねっと」などを運営するディップ株式会社の人材育成術を紹介している。創業から20年ほどのベンチャー企業ではあるものの、株式上場を皮切りに大量の新卒社員を採用して一気に事業拡大を行った。新卒社員をいかに即戦力化するかを重視しており、その人材育成術は他の企業でも活用できる部分も多い。

 本書では持続可能な最速成長モデルには、「人材採用」と「育成環境」が欠かせないと説いている。人材採用の部分ではたとえアルバイトの採用であっても、面接者の人生を左右するため、採用面接に心と時間を使っているそうだ。企業価値をむやみに押し付けるのではなく、面接者の個性を尊重して数時間もじっくりと話を聞く姿勢をとっている。そのため、入社希望者は「ありのままの自分を認めてくれる会社」といった前向きな気持ちで入社するため、自然とモチベーションが湧きやすくなる。育成環境の部分では、入社後も社員ひとりひとりの成長を支えるために先輩や上司が一丸となって、新人のサポートをしていくそうだ。この2つの柱をうまく組み合わせていくことが、ディップの会社としての強さを支えている。

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 個性を尊重し、自由度の高い社風ではあるものの、その一方でビジネスの基本マナーを身につけさせることに余念がない。基本的な挨拶や時間厳守、座る姿勢や立ち居振る舞いまでをきめ細かに教えていく。ビジネスにおいて、正しいマナーは仕事を回すうえでの潤滑油となるものだ。いくら高いスキルを持っていても、取引相手から悪い印象を持たれてしまえば、一気に関係が崩れてしまう恐れもあるだろう。したがって、ディップは人材教育の基本を疎かにしないからこそ、長期的なビジネスの展開ができるのである。

 ディップの方針に「社員満足度No.1の会社を作る」というものがある。これは単に福利厚生制度が充実しているという意味合いだけでなく、自分自身の成長や一緒に成長する仲間の存在を大切にするといった部分も含んでいるのだ。後輩の成長を支えるために、先輩たちのサポート体制が手厚く、入社前からその力を発揮している。就職活動の際には、何時間も面接をしてくれ、それでも足りない場合には面談の時間も作ってくれるそうだ。もちろん、入社後のサポートはさらに手厚いものとなり、内定が決まった段階からそれぞれの新入社員には担当となる先輩がつくという。導入研修が終了すると先輩社員が後輩にメッセージカードを贈るそうだ。1人の先輩社員は50人の後輩社員を受け持つため、ひとりひとりをしっかりと見ていなければメッセージを送ることはできない。それが後輩にも伝わるため、自然とお礼を言うことの意味や心を込めて相手に伝える大切さを後輩たちは学ぶことができるのだ。

 人が成長するために体験する成長痛は、1人で乗り越えるのは辛いときもある。しかし、先輩が二人三脚で一緒に行動してくれるなら、後輩にとってこれほど心強い味方はないだろう。社員教育に行き詰まりを感じたときに本書をひもとくと数多くの発見を得られるかもしれない。人材の育成は一朝一夕ではいかないからこそ、基本的な部分に立ち返って大事なものを受け継ぎ、育てていく姿勢が大事なのだと改めて感じさせてくれる1冊である。

文=方山敏彦