ライト兄弟もジョブズも「未来予想図」を裏切った。未来予測の能力はどうやって磨く?

ビジネス

公開日:2018/5/9

『未来予測の技法』(佐藤航陽/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 特殊能力に憧れはないだろうか。小説や映画に登場する特殊能力の代表的な例が、「未来予知能力」だ。この能力があれば、ビジネスでも投資でもギャンブルでも、何をやっても簡単にぼろ儲けできるだろう。それだけではない、いざという時に大切な人を守れることもあるだろうし、もっと広く言えば世界を救うことだってできるかもしれない。

 ――などと大きく言ってはみたが、ここではもっと現実的な話をしよう。もしあなたが残念ながら特殊能力を持ち合わせていなかったとしても、私たちは平等に偉大な武器を持っている。それは“頭脳”だ。予知能力がなくとも(とても残念なことだがしつこいので諦めよう)、我々は頭脳を駆使することで、少なくとも自分なりの「未来予測」は構築することができるのだという。

 時代を先読みすることができれば、その分チャンスは自分の手中に転がり込んでくるはずだ。だがこの未来予測は、難しい。前置きが長くなって恐縮だが、本稿で紹介するのは『未来予測の技法』(佐藤航陽/ディスカヴァー・トゥエンティワン)という1冊だ。

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■私たちの多くは、未来を見誤る

 かつてどれほど多くのカップルが、ドリカムの「未来予想図II」を聴きながら永遠を誓い合ってきたことだろうか。そしてその何割が…。無粋な余談はこのくらいにしておくが、「未来予想図を正確に描くのは難しい」という教訓は、我々にもしっかりと染みついていることだろう。そのことは世界の歴史も証明している。

「飛行機の実現までには百万年から一千万年はかかるだろう」
 ニューヨーク・タイムズがこの記事を掲載してからわずか数週間後、ライト兄弟は人類で初めて空を飛び、この予測を覆しました。
 一流紙でジャーナリストを務めるほどのエリートが、なぜそんなことを自信満々に書けたのだろうと、当時の人々は笑いました。
 しかし、彼らもまた、こう考えていました。
「宇宙船? そんなものは夢のまた夢だ」

(本書44ページ)

 より科学技術が発展した現代を生きる私たちも、決してこれを笑うことはできない。「実名登録のFacebookは日本では流行らない」「iPhoneはおサイフケータイや赤外線通信が使えなくて不便だから流行らない」。今の高校生や若者は信じてくれないかもしれないが、つい数年前までこんな意見が多数派だった。

 インターネットが登場した1990年代以降、我々を取り巻く環境はさらに急速に大きく変わった。世界の新陳代謝が激しくなり、それまで名前も聞いたことがなかったベンチャー企業が老舗の大手企業を押しのけるような時代に突入したのだ。テクノロジーの進歩は、起業家や投資家すらも置き去りにしつつあるという現状が本書では説かれている。

■未来をうまく予測できる人は、点ではなく線で物事を考える

現在の景色という「点」だけから行う未来予測は、だいたいにおいて外れます。
なぜなら、その一点においてでさえ、現実世界は膨大な要素にあふれているからです。それらが互いに複雑に影響し合って社会を発展させているのですが、それらをすべて把握することは、人間の脳というハードウェアの性能では、まず不可能なのです。

(本書59~60ページ)

 しかし一方で、驚くほどの先見性を発揮して大きなリターンを得る人も稀にいる。その代表が、かの有名なスティーブ・ジョブズだ。1980年代、当時30歳だった彼は、個人がスマートフォンを持つ未来を予言し、それを自分の手で実現することを決めていた。

 ジョブズは、現在という「点」の膨大な情報を組み合わせて考えるのではなく、俯瞰して長い時間軸から社会の変化のパターンを捉え、その流れを「線」として繋げて考えていたからこそ成功を収めたのだと著者は説く。

 その「線」を考えるうえで大切なのが、人間の「パターン」の認識だという。例えば、熱心なゲーマーなら、今までの経験から何となくパターンを把握しており、初見のステージであっても次のトラップの場所が予測できることもあるだろう。

 社会の複雑化によって未来予測は年々難しさを増している。匙を投げてランダムにボタンを押しまくるほうが手っ取り早いとみなされることもある現在。しかし、そんな状況下だからこそ「未来予測ができる人」の価値も高まることだろう。

文=K(稲)