西原理恵子がおくる、生きるための“泥名言”と“悪知恵”
公開日:2018/5/10
みなさんは、漫画家・西原理恵子にどんなイメージを持っているだろうか。代表作は、昨年惜しまれつつ連載を終えた育児マンガ『毎日かあさん』(毎日新聞社)。また、近年は「高須クリニック」院長の高須克弥さんとの“熟年交際”も話題となり、『ダーリンは70歳』(小学館)で院長の印象を覆す赤裸々なデート模様を描いている。そして、昨年ベストセラーとなった『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』(KADOKAWA)は、幅広い年代の女性から共感の声を集めた。
どの作品も、西原さんが全力でこれまでの人生に立ち向かいながら、そのとき考えてきたことがマンガやエッセイの題材になっている。高校を中退したこと。美大志望という名の無職の男と同棲したこと。エロ本のカット描きが最初の仕事だったこと。元夫がアルコール依存症で、理不尽な暴力をうけたこと。西原さん自身もうつになった経験を持つが、そんな自分の人生をうまく“飯のタネ”にしながら生きていく彼女はとても強い。
本稿で紹介する『ことばの劇薬』(西原理恵子/文藝春秋)は、そんな彼女の周りの人間たちが放ってきた名言を集めた『洗えば使える泥名言』(文藝春秋)と、あらゆる人生の悩みに答えるエッセイ『生きる悪知恵』(文藝春秋)からセレクトした、さしずめ“西原理恵子入門”とも呼べるベスト盤だ。
既に『洗えば使える泥名言』にはレビューがあるので、本稿では後半の『生きる悪知恵』セレクションから内容を紹介しよう。
義母からの「早く子供を」とのプレッシャーがつらいです
この相談をした夫婦は、子供に関しては「できたらできたでいいし、できなければできないでいい」というスタンスでお互い納得していたそう。しかし、結婚3年目に入ってから、義母がことあるごとに「子供はどうなの?」と訊いてきたり、子宝に恵まれるお守りを送ってきたりするのだとか。それに対する西原さんの答えはこうだ。
何をどう言ったって年寄りの価値観は変わらないし、どうせそのうち死ぬんだから、放っておきなさいよ。結婚したからには、姑の言うことを受け流すくらいの神経を持たなきゃ。同居してないだけマシじゃない。
どうせそのうち死ぬ――不謹慎とも言われかねないストレートな表現だが、同時にとても現実的で、読み手の肩の荷を下ろしてくれる言葉だ。
なかなか結婚してくれない彼を決断させるには?
この相談者には、交際2年になる同い年の彼氏がいる。お互い31歳で、彼女のほうは「そろそろ結婚を…」と思っているが、彼氏は「あわてなくてもいいじゃない」とつれない態度なのだそう。彼のことは好きだし、またイチから相手を探すのもしんどい。なんとか彼をその気にさせられないか…と悩んでいる。そんな彼女に西原さんはぴしゃり。
全体的に「何とかしてオーラ」「養ってくれオーラ」が出てるように見えるんだよねえ。それは彼氏だって引きますよ。もう彼氏の不安が手に取るようにわかる。結婚しても楽しくなさそうだし。悪いけど、ウチの息子の嫁に絶対にいりません。
「そこまで言うか!」という厳しい指摘だが、西原さんは、そんな彼女を見捨てることはない。どうしても結婚したいなら、彼の持っているものと自分の持っているものが釣り合うように努力するべきだという。これは、西原さんが本書でも繰り返し語っている“夫婦は支え合うもの”という考え方にも繋がっている。
ひとたび読みだせば、人生の酸いも甘いも噛み分ける西原さんが、自分のそばにいてくれるような安心感を得られる1冊だ。
文=中川 凌
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