読めば呑みたくなる! 若手飲酒シーンの旗手・パリッコ初の酒場エッセイ

食・料理

2018/6/1

『酒場っ子』(パリッコ/スタンド・ブックス)

“酒場”はお好きだろうか? チェーンの居酒屋ももちろん楽しくて素晴らしいのだが、暖簾をくぐると大将や女将が切り盛りしているような酒場はまた格別だ。興味の向くままに焼き鳥や本日のおすすめの一品料理などを注文して舌鼓を打ち、雰囲気と酒と話に酔う。そんな素敵な人間味あふれる夜が好きだ。

 その酒場の良さを感じる手段として、何が有効だろうか。その答えは“エッセイ”なのではないかと私は思う。例えばインターネットで初めて行く酒場のレビューや口コミを調べるときにも、熱があって引き込まれるようなレビューは、投稿者の意図にかかわらずエッセイ調になっている場合が多いように感じる。

 本稿では、プロの“酒場ライター”であるパリッコさんの酒場エッセイ集をご紹介したい。『酒場っ子』(パリッコ/スタンド・ブックス)という1冊。1978年東京生まれの著者は、酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーターなど、幅広くマルチに活躍する呑兵衛さんだ。

 本書の先頭のエッセイ「大衆酒場の存在に気づかせてくれたお店 高円寺『大将』」では、著者が大衆酒場にハマった日のエピソードが語られている。20代の頃、高円寺に入り浸っていたという著者。その頃はとにかく酔っ払うことが目的なので、お店選びは「飲み放題コースがあること」を最重要視していて、それが一番安上がりだと信じて疑わなかったという。そうすると、結果的には飲みの場所はどこの街にでもあるような大手チェーン店に落ち着く。

 ある時、少しマンネリ気味な日々に変化が欲しくて、「たまにはこんなとこ、どう?」なんて言いながら友達と何気なく入ったお店が、高円寺駅前の「大将本店」。

酒もつまみも安いし、何を頼んでも、具体的に「どこが」と説明するのは難しいんですが、チェーン店のセントラルキッチン的な味付けとは違う、手作りの温かみのようなものを感じる。

 たっぷりと飲み食いしたのに、お会計は2000円ちょっと。その夜の「え? こんな素晴らしい世界があったの!?」という感動と衝撃が、今日の著者の活動の原点となったのだという。

 本書は東京のディープな酒場を中心とした構成だが、関東、東海、関西、沖縄などの酒場までしっかりと網羅されている。普段の仕事帰りや華金の酒場探しにはもちろんのこと、出張や旅行先での思い出づくりにも役立ちそうだ。

 著者が大衆酒場に目覚めた日のエピソードのように、酒場というものはいつも新しい何かに気づかせてくれる。もしくは、わすれてしまっていたものを思い出させてくれる。

 本書には40軒の酒場のエッセイが収録されているが、誇張した宣伝などはひとつもない。そのどれもに著者の等身大の感動と発見がちりばめており、読んでいるうちに酒場の世界が美しく思えてくるのだ。そして、飲みに行きたくなる。さて、今夜は誰とどこに飲みに行こうか。

文=K(稲)