あんなに巨人が好きだったのに…元・ファンの現在を追ってみたら

スポーツ・科学

2018/6/9

『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(菊地高弘/イースト・プレス)

 昭和の流行語として、「巨人・大鵬・卵焼き」という言葉があった。「子供の好きなもの」を並べているのだが、筆頭に挙がるのがプロ野球チームというところに時代を感じさせる。確かに、1965年から73年にかけて「V9」を達成した巨人軍の人気は尋常ではなかった。その後、80年代から90年代にかけても桑田真澄や斎藤雅樹、松井秀喜といったスター選手が中心となり、ペナントレースでは常に優勝候補筆頭に挙げられたのが巨人というチームだったのだ。

 しかし、2018年現在、巨人の人気はなりを潜めている。今や人気球団の代表格は広島カープだし、絶対的な常勝チームでもなくなってしまった。V9時代に巨人を応援していた子供たちは大人になり、どこに消えてしまったのか? そして、現在の巨人ファンはどんな心境で過ごしているのか? 『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(菊地高弘/イースト・プレス)はそれらの疑問に答えていくプロ野球評論である。

 思えば、巨人ファンが心変わりするきっかけは、90年代以降幾度となく訪れていた。著者が「元・巨人ファン」を対象として独自に行ったアンケートでも、「ファンをやめた理由」はさまざまだ。

「江川問題」(男性)
「2003年の原監督解任」(男性)
「好きな選手が移籍したため」(女性)
「FA選手の乱獲、金銭問題」(男性)

 こうした調査を続けていて、著者は巨人ファンを「隠れキリシタン」になぞらえ始める。人気絶頂のV9時代から、「アンチ巨人」の野球ファンは増えていた。そして、1996年に渡邉恒雄氏がオーナーに就任し、他球団の主力選手を見境なく強奪してくるようになるとアンチ巨人はふくれあがる。つまり、「巨人ファン」もまた球団同様、迫害の対象となって言い出しにくい「信仰」となったわけだ。

 逆を言えば、いまだに巨人ファンを続けられている人は、心が折れそうになる事態への「スルースキル」があるのではないかと著者は分析する。隠れキリシタン同様、巨人ファンにも信仰を試される「踏み絵」が続いてきた。1978年の「江川事件」、2004年のドラフト裏金事件に球界再編問題、2015年の野球賭博問題など…。野球に関心のない層からも徹底的に反感を集めた「踏み絵」の数々に、真正面から向き合っていたのではファンでいられない。巨人ファンはことごとく踏み絵をスルーしつつ、世間の弾圧から逃れるための思考を手に入れたのではないかと著者は考察する。それゆえ、巨人ファンは「カープ女子」や「虎党」のように、目立つことなくひっそりと暮らすようになったのだ。

 かつては12球団の中で抜きん出た存在だった巨人の現状について、メリットとデメリットも語られていく。ペナントレースを活性化させ、全球団のファンが期待感を持って開幕を迎えるためには、巨人も「12分の1」であった方が望ましい。しかし、サッカーに目を移せば、レアル・マドリードとバルセロナの関係のように「絶対王者に挑戦する対抗馬」の構図があるとファンの思い入れも増大していくのは事実だ。

 そして、著者は低迷期から再び人気を回復しつつあるプロレス界に学ぶべき点を見出す。人気プロレスラーにように、「ファンから見られている意識」を持って臨めば、野球界にも続々とスタープレイヤーは生まれてくるのではないか。そう、「巨人ファンが消えた」のは、プロ野球全体からドラマが失われ、巨人と他球団の関係が薄まった結果でもある。子供たちの娯楽はもはや野球と相撲と食べ物だけではない。だからこそ、プロ野球の魅力がより引き立つような見せ方が必要だと、本書は球界に訴えているのである。

 最後に…第3章の「元・巨人ファンミーティング」は「あるある」のオンパレードで必読!

文=石塚就一