ベストセラー『嫌われる勇気』の著者が考える「幸せになるための3つの条件」とは

暮らし

2018/6/14

『成功ではなく、幸福について語ろう』(岸見一郎/幻冬舎)

 世の中からどんどん幸せの数が減っている気がする。暗い気持ちになるニュースばかりが流れる報道番組。パワハラやセクハラ、低賃金などのブラック企業に苦しむ社会人。いじめの尽きない学校教育。絶えない家庭内のトラブル。他にも書ききれない問題が社会にあふれている。そんな世の中で私たちは一生懸命生きている。

 だからこそ「幸せになりたい」と願う人は多い。しかしどんなに願っても、空を切るように手からするりと逃げていく感覚がある。つかめそうで、つかめない。

 幸せの形とはなんだろう。なぜこれだけ願っているのに幸せになれないのだろう。幸せな人生を送るには、これからどう生きればいいのか。

 そのヒントになりそうなのが『成功ではなく、幸福について語ろう』(岸見一郎/幻冬舎)だ。本書は、アドラー心理学の第一人者でベストセラー『嫌われる勇気』の著者・岸見一郎氏が「幸福とは何か」について真正面から向き合った1冊だ。こういったテーマは哲学的なだけに難解で目をそらしがちだが、せめてこの記事を読む間だけはぜひ付き合ってほしい。

■自分の課題は自分で解決する

 本書は「幸せになる方法」ではなく、「幸せとは何か」を考えるところから始まる。「成功と幸福は同じものではない」「幸福は達成するものではなく、存在するもの」「成功は幸福になる手段である」など、今まで私たちの抱えていた幸福の価値観が180度変わる言葉が並べられている。それを紹介したいが、難しいテーマなだけにこの記事内に収めるのはちょっと厳しい。

 そこで、本書の第2章で述べられている「大人になるための三つの条件」についてご紹介したい。これは、岸見氏が母校である洛南高校・同付属中学で在学生に向けた講演の内容だ。中学生向けのスピーチだが、大人になった私たちでもはっとする「気づき」が語られている。

 その1つ目の条件が、自分が決めなければならないことを自分で決められることだ。

 人生を生きていると、様々な「課題」に直面する。「大学進学はどこを選ぼう」「どこの会社に就職しよう」「いつ誰と結婚しよう」。これらの課題は自分自身で結論を出さなければいけないのに、「親の希望であそこの大学に決めた」「就活で受かったからなんとなく入社した」「別れる理由もなかったし、結婚することにした」などと、自分の意志ではなく、何かに流されるように決めてしまうことがある。

 その場は上手くいくかもしれないが、これでは長続きしない。まるで親に「勉強しなさい!」と言われて渋々始める子どもと同じだ。自分の課題は自分で解決しないと、幸せは遠ざかってしまう。

■自分の価値は自分で決める

 2つ目が、自分の価値を自分で決められるということだ。

 岸見氏のもとにカウンセリングに訪れる人のほとんどが、自分のことが嫌いだそうだ。「自分は価値のない人間だ」。そんなことを考えてしまう。

 自分のことを嫌いな人の多くが、人間関係で苦労してきたはずだ。「お前は仕事のできない奴だな」「君のことは異性として見られない」。こんな嫌な言葉をたくさん言われて、自分は価値のない人間だと思いこんでいるのかもしれない。

 だが、これはあくまで他人の「評価」だ。たとえどれだけ相手から嫌なことを言われようと、嫌な体験をしようと、それはあくまで他人の価値観に基づいて決定したものであって、自分の「価値」ではない。自分の良いところや可能性は自分で決める。それは誰にも左右されない絶対的な価値だ。

 また、岸見氏はこうも述べている。「私たちが生きる喜びや幸福感を感じるのは、対人関係の中でしかない」。つまり幸福になりたければ良好な対人関係を築くしかない。

 しかし「自分には価値がない」と感じる人は、積極的に対人関係の中に入っていけない。というより、対人関係の中で傷つく体験をしたくないから「自分には価値がない」と思いこんでいることもある。

 だからこそ幸福をつかむためには、自分に価値を感じ、それを自分で決めることが大事だ。「自分が嫌い」のまま幸せになることはできない。

■自己中心的な考え方から脱却する

 最後の条件が、自己中心的な考え方から脱却することだ。岸見氏はこれを説明するため、子育てを例に挙げている。

 たとえば親が「この子はまだこんなことも自力でできない」と勝手に考え、いつまでも子どもを小さいときのように扱うと、そのまま育ってしまった大人は、他の人が自分に何かしてくれることを当然だと思うようになる。「この人は自分に何をしてくれるのだろう」とばかり考え、その期待にそえないと失望する。

 つまり「してもらうことばかり考える人」のことだ。そういう人は、自分がどこかの組織に属したとき、自分が中心にいないと気が済まない。また、他人に何かを与えることができないので、自分にどんな価値があるのか、自分で見出すことができない。

 私たちは誰かと関わらずに生きていくことができない。つまり誰かのために貢献する経験が、自分に価値を感じる瞬間になる。その瞬間を増やすことが幸福を増やすことにつながる。

「してもらう」から「誰かに与える」へ成長する。大人になることが自分自身を幸せにする条件でもある。

 ここまでのことが本書の第2章で詳細に語られている。

 子どもの頃は、親が私たちに好きなものを与えてくれた。それを抱きしめているだけで幸せだった。友達と楽しく遊ぶ毎日が無性に楽しかった。しかし大人になると、自分で自分を幸せにする必要がある。しかし会社で成功を収めるだけでは幸せになれない。恋人と結婚することは、幸せな人生を歩むスタートにすぎない。成功をつかむたび、また別の成功を追い求め、その繰り返しにいつしか疲れてしまう。

 ならば、どうすればいい? どうすれば私たちは幸せになれる?

 幸せに答えはない。なぜなら、一人ひとり感じ方が違うからだ。だから考える。その禅問答の先に幸せの形がある。それを見つける日まで、今日から少しずつ自分自身に語りかけてほしい。

文=いのうえゆきひろ