祝!21年ぶり、カンヌ最高賞受賞『万引き家族』―是枝監督が小説で描く「家族の愛情」

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2018/6/20

『万引き家族』(是枝裕和/宝島社)

 世界三大映画祭のうちの一つ、フランス・カンヌ国際映画祭で最高賞にあたるパルムドールを、是枝裕和監督作品『万引き家族』が受賞した。1997年に今村昌平監督作品『うなぎ』が受賞して以来の快挙だ。映画を小説化した『万引き家族』(是枝裕和/宝島社)は、『そして父になる』『三度目の殺人』に続き、監督自身による3冊目のノベライズとなる。

 物語の舞台はスカイツリーを望む東京の下町。古い平屋で偽物の5人家族が、それぞれの秘密をかかえながら暮らしている。家族は最年長・初枝の年金を頼りに、足りない分は万引きで稼いで暮らしている。ある日、近所の団地の廊下で震えていた少女・じゅりが、新たに家族に加わる…。

 万引きの収穫が、生計の要である家族のホームドラマ。その物語が感動的であればあるほど、その描写の難易度は高いように思える。なぜならば、物語のパーツを一つでも組み立て間違えると、「万引き」という行為を正当化してしまうことになり得るからだ。

 コロッケ、とうもろこし、シャンプー、お麩、魔法瓶、ビー玉、セミ、雪だるま……数々の細かなシンボルがつながりあい、物語が組み立てられる。読者によって、完成される「像」は違うはずだ。その「像」が築かれていくにつれて心に湧き起こるのは、物事の「価値」に対する疑問だ。

 万引きというのは、決められた対価を払わずに、物品を持ち去る行為である。ホテルに宿泊して宿泊料金を払わなければ「未払い」あるいは「踏み倒し」となり、万引きとはならない。サービスは目に見える物品ではないからだ。

 父・母・子などという社会的役割も、確固たるもののように思えるが、目に見えない。著者は、万引きという行為の特性を、家族関係に応用して物語を展開する。本作で描かれる家族では、(映画では、名女優ケイト・ブランシェットから演技を絶賛されたという安藤サクラが演じる)信代という人物が母親「役」だ。信代はじゅりの本当の母親から、母親という「役割」を奪っている。

じゅりの髪を切るという流れになった時、なんとなくみな、母親役の信代がするものだと思っていたが、信代は正直、どうやったらいいのか、皆目わからなかった。

「母親役の女性」と「本当の母親」というのは何が違うのだろうか。社会に漠然と存在する「父親らしさ」「母親らしさ」というのは偽物で、本物は自分だけが見つけられるのだという「愛情」に対する著者の考えは、こんな数行の会話からも感じられる。

「そんなの長続きしないけどね……
いつまでもこんな幸せは続きはしない。初枝は冷静にそう考えていた。
「そうだけどさ……。でもほら……血がつながってないほうがいいこともあるじゃない」
信代はどうしてもそう信じたいらしい。

 ちりばめられた文字によるヒントを組み合わせ、心の奥底に眠っている自分だけの「価値」に手を伸ばす。映画を見るのとは全く違った体験ができる一冊となっている。

文=神保慶政