4人体制ですべてを一新。ももクロはいかにして“逆境”と向き合ったのか?

エンタメ

2018/6/20

『ももクロ改』(日経BP社)

 2018年の5月17日で、結成10周年を迎えたアイドルグループ・ももいろクローバーZ。代々木公園での路上ライブやワゴン車1台での全国行脚などで下積みを重ねた少女たちは大人になり、やがて、女性グループとして史上初の旧・国立競技場ライブを達成するなど、老若男女を問わず多くの人びとの心を熱くたぎらせるほどに大きな存在となった。

 しかし、転機は不意に訪れた。今年1月21日に行われた幕張メッセ国際展示場のライブで、およそ7年間の在籍期間を数えた有安杏果が卒業。かつて“奇跡の5人”と称されたグループの理想とするべき形は変化を余儀なくされ、百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏、高城れにの4人は、再スタートを切ることになった。

 有安が笑顔でステージを去ってから、アニバーサリーイヤーの節目となったグループ初の東京ドーム公演までに、彼女たちはどのように“最大のピンチ”と向き合ったのか。ももクロのマネジメントを手がける川上アキラ氏の著書『ももクロ改』(日経BP社)には、約4ヶ月間にわたる“忘れちゃいけない記憶”がメンバーや川上氏、そして、チームももクロを支える3名の関係者たちの証言により記録されている。

◆奇数から偶数に。5人から4人となったフォーメーション作りの難しさ

 幕張メッセ国際展示場で行われた有安の卒業ライブ。モノノフと呼ばれる彼女たちのファンが涙に暮れる中、最後の1曲となったのは、10年前にステージデビューを飾った4人体制として初披露の「あの空へ向かって」だった。

 新体制の準備は「杏果の卒業ライブの翌々日くらいから始まりました」と振り返るのはメンバーの玉井だ。約3週間後にはすでに、横浜アリーナでのイベントを控えていた彼女たち。メンバーのソロ仕事が並行する中では、全体で合わせる時間が「わずか4日」だったと川上氏は語るが、実は、その裏にはメンバーの発言をきっかけに“過去の曲を一新する”という決断に至った経緯もあった。

 グループではメンバーの人数が変わると、歌のパートや振り付け、ダンスのフォーメーションを見直す必要がある。その苦労の一端について、ももクロを支える関係者の1人・コレオグラファーのAnna氏は、次のように明かしている。

フォーメーションを考えるうえでは、5人から4人になるというのも難しかったポイントです。偶数だったものを奇数に変えるのは、どちらかと言うとやりやすくはあります。センターを作ってあとはシンメトリーに配置することで、ある程度、これまでの振りやフォーメーションを生かして形にできるので。逆に奇数だったものを偶数に変えるには、センターを割って均等に配置することになるので、修正すべき点が増えるんです。

 5人体制だった時代、ももクロはリーダー・百田をセンターとするフォーメーションを象徴としてきた。以前はセンターを示す“0”位置が定着していた百田も、この4ヶ月間を振り返る中で「Zになった当時、6人から5人になるのを経験していたはずだけど、偶数から奇数になるのと、奇数から偶数になるのは感覚が違う」と伝えている。

◆たった一つの歌声が抜けるだけでも世界観が変わってしまう

 振り付けやフォーメーションが見直された一方で、曲ごとのパート割りも変更された。ももクロにおいてはとりわけ、歌唱力に定評のあった有安が抜けたことも大きな変化となったが、ボイスメイキングディレクターとして彼女たちの歌唱面を支える関係者の1人・岡田実音氏はグループについて以下のように語っている。

彼女たちはよく「奇跡の5人」と呼ばれていましたけど、それは音楽的な部分でも当てはまっていました。メンバーの年齢は近いのに、これだけ1人ひとりの声質がまったく違うというグループは珍しいんです。例えば、ユニゾンで歌うサビでも、5人の倍音(音の重なり)から、たった一つでも個性のある声が抜けると歌の世界観が変化してしまうことになる。

 このピンチを切り抜けるため、時間が限られる中であっても、一言ずつのフレーズを繋ぐためにもう一度原点に立ち返るレッスンに取り組んだという岡田氏。しかし、そんなさなか、自分たちの逆境をむしろ前向きに「今まであまり光を浴びせてこなかった曲を輝かせるチャンス」と捉えていたのが佐々木だった。

 さらに、彼女たちの曲をたどる中では、この4ヶ月間の象徴となったのが「行くぜっ! 怪盗少女」である。曲中でメンバーの名前が呼ばれるのはもちろん、4人体制の本格的な幕開けとなった2月の横浜アリーナ公演で1曲目を飾った曲でもあった。

 なぜ、この曲が選ばれたのか。ももクロの楽曲全般を指揮する、キングレコード・EVIL LINE RECORDSの宮本純乃介氏は以下のようにその経緯を振り返っている。

『行くぜっ! 怪盗少女』を含めて、ももクロにはメンバーの名前が入った曲がいくつかあるのですが、そういう楽曲をどう扱うかというのは議論の1つになっていて。ただ、『怪盗』はグループの代表曲でもあるから、ちゃんと歌詞を変えて早めの段階で成立させようという結論に至りました。

 そしてもう一つ、この『行くぜっ! 怪盗少女』という曲にはあるメンバーのドラマもあった。その主役は、ももクロがメジャーデビューを飾った一曲で「ソロのパートがほとんどなくて、悔しすぎて歌割りの発表で号泣した」と振り返った高城だ。4人体制となってからはパートが劇的に増えたが、有安が力強く表現してきたパートを継いだことで「自分なりの力強さを見せつけたい」と意欲もわいたという。

 たった4ヶ月。彼女たちの歩んできた10年間の歴史を振り返ると、ひょっとするとささいな期間にも思えるかもしれない。しかし、川上氏はふとしたときに百田がつぶやいた「この4ヶ月のことを忘れちゃいけない」という言葉が、強く印象に残っていると明かしている。

 女性アイドルが“短命である”というのは、昔からまことしやかに囁かれていることだ。しかし、ももクロはその“常識”を打ち破り、これから先も続けていくことを決断したグループでもある。結成10年目という大台に達しても、なお自分たちの進化を選んだ彼女たちの強さを本書からぜひ感じ取ってもらいたい。

文=カネコシュウヘイ