「えっ? 初詣は明治時代の鉄道会社の宣伝広告がルーツ?」伝統の正体を解明せよ!

社会

2018/6/23

『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅/柏書房)

「古くからそうだから」「伝統だから」と言われるとついついありがたく思って受け入れてしまう…。あなたにも思い当たることはないだろうか? 例えば初詣、七五三、おせち料理、などなど。だがちょっと待って欲しい。その「伝統」と呼ばれているものは本当に古くからそう行われてきたのだろうか? そもそもいつ頃の時代から続いていれば「伝統」と呼ぶにふさわしいのだろうか?

『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅/柏書房)は「日本の伝統」がいかにして作られ、人々がそれをどのように受容してきたのかを、いくつかのパターンに分けてわかりやすくまとめたものである。「伝統の正体」とは何なのだろうか、そしてその「伝統」に人はどのような影響を受けているのであろうか、探ってみたい。

■日本人は「新しくて古い」ものが好き。それって何?

 日本人は新しいもの好きだ。とりあえず受け入れる(それどころか飛びつくという人もいるかもしれない)。だが一方で、新しく登場したものについて「実は古い伝統や由緒がある」という情報を知ると安心する。すなわち、「古い伝統をバックボーンに持つ“新しい習慣”」は最強の組み合わせである、と著者は述べている。上述した初詣、七五三、おせち料理という風習は、いずれもこの代表パターンだそうだ。では誰がいつこういった伝統を作り出し、広めてきたのだろう。

「初詣」は、明治初期に新しく生まれた花形産業であった鉄道会社と新聞社によって、また「七五三とおせち料理」は百貨店の宣伝と営業努力によって「伝統」という地位を確立した、というのが著者の研究による主張である。

 つまり商売と結びつけて利益を得る人々がいたからこそ、世に広く広告され、それが風習として継続し、結果的に新しい伝統として定着するに至ったということだ。

 …となると、まだビジネス市場で使われていない「季節」「記念日」「商材」のマッチングを思いつくことができれば、次の新たな「伝統ビジネス」でビッグマネーを作り出すのはあなたかもしれない。

■「江戸」マジックと「京都」マジックの不思議

 もうひとつの「日本の伝統」のパターンを見てみよう。それはキーワードによるマジックとも呼べるものだ。ここでは「江戸」「京都」というキーワードに注目してみることにしよう。

 人々はよく簡単に「江戸時代」とひとくくりにして言う。けれどもちょっと考えて欲しい。「江戸時代」とは歴史で習ったとおり徳川将軍は15代、天皇も15代が替わった265年間という歳月をひとくくりにした名称である。

 自分の15代前の先祖や15代後の子孫のことを容易に想像できないように、「初代・家康の時代」と「幕末」では隔世の感がある。このような時代の違いがあるにもかかわらず、それにはあまり疑問を感じずに「江戸」というキーワードがつくと漠然と古い伝統だと感じていないだろうか?

 さらにキーワードが「京都」となると、なにしろ千年の都である。「京都」という言葉がついただけで伝統のような印象を感じてしまっても不思議ではない。

「江戸」「京都」以外にも似たような錯覚効果を持つキーワードやフレーズは多くある。そういった言葉を上手く活用することで「伝統」が作り上げられてきた、という著者の説明には、思わず納得してしまうポイントが多い。

 当然のことだが、すべての「伝統」も、始まった時点では「伝統」ではなかった。どれほど歴史の古い伝統でも、いつの時代かにどこかで誰かが作ったものなのである。だからこそ、まず「伝統」の正体やそのルーツについてきちんとした知識を得て、その上で受け入れるなり、笑い飛ばすなり、楽しむなりしてみてはいかがだろうか。

 普段何気なく行っている伝統行事に疑問を持ち、自ら調べ直して考えてみると、そこにはきっと新しい発見があるに違いない。その知的探検のきっかけとして、まず気軽に本書を一読されることをおすすめしたい。

文=ナカタク