「何人妻がいても、本当に愛しているのはお前だけ」男も妊娠する世界…丸木戸マキのオメガバースが絶品!

マンガ

公開日:2018/7/7

『オメガ・メガエラ』第1巻(丸木戸マキ/講談社)

 2016年のデビュー以来、新刊が出るごとに深いドラマ性が高く評価されている気鋭の作家・丸木戸マキが、最新刊『オメガ・メガエラ』第1巻(講談社)で、「オメガバース」に挑んだ。

 主人公の漆間犀門(うるしま・さいもん)は、愛する男・英征十郎(はなぶさ・せいじゅうろう)の子供を産めなかったことで、家庭に災厄をもたらす「メガエラ」と呼ばれていた。華麗なる英一族の中で、絶望とともに20年近い年月を日陰で過ごした犀門のもとに、ある日、人生を逆転できる可能性を秘めた、ゆがんだ希望がもたらされる。やがて犀門は、自らの、そして英一族の未来を激変させる賭けに身を投じていく。1巻では、壮大な運命の歯車がまわりはじめた序章が、手に汗握る緊張感で描かれる。

 物語は、犀門と征十郎が学生時代に出会い、結婚したところからはじまる。けれど、犀門に1年以上子供ができなかったため、次の妻が用意され、母になれなかった犀門は、社会に貢献する教師として生きることになる。おとぎ話の終わりは、すべてのはじまりだったのだ。

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(C)丸木戸マキ/講談社

 作品によって多少差異があるものの「オメガバース」という世界設定には、男性と女性それぞれにα(アルファ)・β(ベータ)、Ω(オメガ)という3つの性がある。生まれながらに優秀で数が少ないアルファ、もっとも数が多く平均的なベータ、そして、アルファを産むことができる唯一の性・オメガ。オメガは産むことに特化した体質で、成長すると月に一度妊娠の確率が上がる激しい発情期が訪れ、その間は抑制剤をのまないと日常生活が送れなくなる。そして、アルファとオメガには、生涯にただひとりの「魂の番(たましいのつがい)」がこの世のどこかにいる、という伝説がある。

(C)丸木戸マキ/講談社

 お互いを「魂の番」だと信じて結婚した征十郎と犀門。次の妻をめとることになった時も、征十郎は「俺が本当に愛しているのはお前だけだ」と犀門に誓う。その言葉をよすがに、長い間、犀門は最下位の第三夫人として離れでひっそりと暮らしていた。しかしある時、義父がとんでもない提案を持ちかけてくる。「お前に子供をくれてやろう」。好色な義父がかつて秘密裏に弄んだオメガの娘が産んだ子供を探し出し、もしもアルファなら、征十郎の籍に入れて犀門が母になれ、と。それは、征十郎との断ち切られた絆に苦しみ続けていた犀門にとって、あらがえない誘惑だった。

 アルファの子供の母にさえなれれば、第一夫人に、征十郎の隣に、いることができる。しかし、探し当てた子供は、利発だが、いつ発情期が来てもおかしくない15歳のオメガの男子・馬宮(まみや)だった。かつて研究者として、オメガ用発情抑制剤の開発に携わっていた経験があった犀門は、馬宮との出会いで、命がけの嘘をつくことを決意する。馬宮の発情期を抑え、アルファの男子として英家に連れ帰り、自分はその母として征十郎の第一夫人に戻るのだ。性別を偽ったことが判明すれば、死罪もありうる危険な賭けだが、苛烈な人生を歩んでいた馬宮もまた、運命を自分で決めることを決意し、計画に乗る。

 二人は自らの運命を変えるため、周囲を欺く道を選択するが、はからずも置かれた意に沿わぬ環境から、わずかな光を目指して困難な道を行こうとするさまは、激しくもうつくしい。

(C)丸木戸マキ/講談社

(C)丸木戸マキ/講談社

 名前の漢字を変えた真宮(まみや)を迎え入れた英家には、4人の征十郎の子供がいた。第一夫人の長女で優秀な麗子(れいこ/アルファ)、ポンコツな長男の伊織(いおり/アルファ)。第二夫人の長女で優しい性格の鹿世(かよ/オメガ)、おとなしい次男長男の鷹尾(たかお/オメガ)。真宮の世話係は、英家のすべてに通じ、今後ストーリーに関わってきそうな気配をにじませる執事の斯波(しば/ベータ)だ。

 跡継ぎとして育てられてきた麗子は、家長である祖父に「女でなければ完璧だ」をと言われ続けており、できそこないのアルファとして扱われている伊織は、心優しい鹿世を慕っていた。同い年の伊織と真宮はケンカ友だちのようになっていくが、アルファの伊織とじゃれあっていた真宮の身体に、ついに異変が訪れて――。

(C)丸木戸マキ/講談社

(C)丸木戸マキ/講談社

 永遠の愛、妊娠、出産、優生思想、家父長制度、貧困など、重厚なテーマも盛り込まれた読み応えのある作品である。続きが待ちきれない、新しいオメガバースの愛のドラマがはじまった。

文=波多野公美