織田信長もひいきにした「死の商人」って?『人に話したくなる世界史』

社会

2018/7/15

『人に話したくなる世界史』(玉木俊明/文藝春秋)

「歴史を学ぶ」と聞けば、学生時代のテスト勉強を思い出し、うんざりしてしまう人も多いのではないだろうか。実際、年表や固有名詞を暗記するばかりの勉強は「つまらない」といっていいだろう。ただし、歴史を学ぶ意義とは何も「テストや入試で役立つから」ではない。過去の出来事を現代の観点から振り返ることで、学ぶ人の知見が広がっていく点にこそ醍醐味があるはずなのだ。

『人に話したくなる世界史』(文藝春秋)は、京都産業大学教授で歴史家の玉木俊明氏による世界史解説である。とはいえ、参考書や学術書のような格式ばった読み物ではない。むしろ、これまで歴史に興味がなかった人こそ楽しく、スラスラと読める内容である。イメージとはまったく違う偉人たちの真実や、現代人と密接なつながりのある歴史的事件が、自然と頭に入ってくる一冊だ。

歴史のストーリーは、本来、とても面白いものであるはずです。それを面白くなくしているのはむしろ歴史家の責任です。

「はじめに」でそう述べた著者が、本書で目指したのは「人に聴かせて面白い歴史」である。即ち、事実が難しい言葉で羅列されている歴史でも、マニアックな事柄だけが専門的に書かれている歴史でもない。ここで読者が触れられるのは、有名な史実に対して「新しい解釈」が加わった歴史である。

 たとえば、8世紀から11世紀までヨーロッパの海で活躍していたヴァイキングについてのエピソードだ。数々のフィクションのモデルになってきたヴァイキングは、「荒くれ者の海賊」「掠奪者」というイメージが定着していた。しかし、近年の研究では、ヴァイキングが「掠奪者」ではなく、海を越えてイスラーム帝国とも取引を行なってきた「大商人」だったと判明してきている。「強い買い手の立場」になることが多かったヴァイキングは、売り手からすると「掠奪者」のように見えていたわけだ。そして、ヴァイキングが開拓した貿易ルートはやがてドイツやオランダの商人に引き継がれ、アジアとの交易につながっていく。

 日本人からすると、戦国武将の代表格、織田信長と世界史の関係も興味深い。16世紀、ヨーロッパ諸国はアジア圏に交易を広げ、特に火縄銃などの火器は需要を伸ばしていく。同時に、イエズス界の宣教師たちが熱心に布教活動を行なっていたのも日本史ではおなじみだろう。だが、イエズス界は貿易でも戦国大名と積極的に関わりを持っていた。価格交渉を自ら行なっていただけでなく、軍需品も普通に取引をしていたという。織田信長がイエズス界と親密にしていた時期があったのは「死の商人」としての側面を評価していたからである。そして、武器を自国で生産するだけの技術が備わった頃には、信長にとってイエズス界の重要度は低下していた。信長とイエズス界はあくまでビジネスライクな関係だったのだ。

 極めつきは、名作アニメ『母をたずねて三千里』に関する歴史である。少年マルコがイタリアのジェノヴァからアルゼンチンの首都ブエノスアイレスにいる母と会うために旅をする感動物語だが、そもそもどうして「アルゼンチン」だったのか? その背景には、アルゼンチンにおける移民労働者の「高賃金」、そして、蒸気船の発達による「航海の確実性アップ」があった。マルコの大冒険もまた、世界の変革期とつながっていたと思えば、アニメもさらに深い見方ができるだろう。

「歴史」は単純に面白い。さまざまな場所で起こった出来事が重なり合い、さらに大きな波紋になっていくのは非常にドラマティックだ。しかし、無理やり歴史の勉強を強制されるのでは、そんな面白さまで気がつきにくい。歴史ファンだけでなく、学生時代に歴史の時間が退屈だった人も、本書でもう一度「面白い歴史」と向き合ってみてはどうだろうか。

文=石塚就一