オチがつかないからこそ恐ろしい。月刊『ムー』掲載の恐怖体験投稿はこんなにすごかった!

文芸・カルチャー

2018/8/4

『ムー実話怪談 「恐」選集』(吉田悠軌:選/学研プラス)

 世界の謎と不思議に挑戦する、超常現象専門誌『ムー』(学研プラス)。その誌面で35年以上もの長きにわたって続いているコーナーがある。読者の恐怖体験を掲載する「あなたの怪奇ミステリー体験」(初期タイトルは「わたしのミステリー体験」)だ。

 7月17日に発売された『ムー実話怪談 「恐」選集』(吉田悠軌:選/学研プラス)は、そこに寄せられた膨大なエピソードの中から、極めつきの怪談70数編をセレクトしたベスト盤的作品集である。

 ぞっと鳥肌が立つもの、不条理で奇妙な味わいのもの、思わず涙腺を刺激されるものまで、クオリティの高い怪談がずらりと並ぶ。長年『ムー』に親しんでいる当レビュアーにとって、この面白さは意外だった。まさかUFOや超能力に関する記事の片隅で、こんなにすごい怪談が延々35年以上も掲載されていたとは!

 たとえば冒頭の「古ミシン」はこんなエピソード。トイレに行くため深夜に目をさました投稿者は、廊下に置かれた古いミシンを、見知らぬ女が踏んでいるのを見かける。両手をだらりと伸ばし、足だけ使ってミシンを回す女。その顔には、両目がなかった……。

 その女が何者だったのか、どうして古いミシンに座っていたのか、数ページの体験談では明かされない。顔が青く、両目がないという不気味なビジュアルの理由も一切不明。だからこそ想像力が刺激され、言いようのない怖さが増してくる。綺麗なオチがつくフィクションと違って、実話は「オチがない」からこそ恐ろしいのである。

 個人的にこれはと唸ったのが「やっと来たわね」というエピソードだ。同じ夢をくり返し見るようになった男性からの投稿だが、夢の中とはいえ不条理なセリフがなんともいえず怖い。心臓をぎゅっと握られるような恐怖と、生々しいリアリティがあって、実話のすごみを堪能できるような逸品だった。

 描かれる怪異もさまざまなら、投稿者のプロフィールも多種多様だ。小学生、サラリーマン、愛する家族を亡くした人、戦時中に疎開経験のある高齢者。すさまじい恐怖体験の向こうに見え隠れする人生模様が、さりげないひと味を沿えている。ややマニアックな読み方かも知れないが、怪談ではこういう細部こそ重要なのである。珍しいところでは元受刑者の男性が独居房で体験したという怪談も。刑務所でも閲覧可能という『ムー』ならではの投稿だった。

 ド派手な展開に惹きつけられる「惨殺された叔母の通夜」などがある一方で、古風でオーソドックスな「ウラメシヤ」がある。この絶妙なセレクションを担ったのは、自らも怪談作家として活躍中の吉田悠軌氏。吉田氏による解説は、収録作をより楽しむためのよきガイド役となるだろう。収録作と微妙にリンクした、書き下ろし新作怪談も見逃せない。

 なお、本書のもとになった『ムー』の連載は、一人のライターによって運営されてきたという。巻末には長年わたって読者の手紙を読み、選んできたライターT氏へのインタビューも掲載されているが、それは昭和から平成にかけての怪談業界裏話として、たいへん興味深いものだった。

 仕事柄、毎月多くの怪談本を読んでいる当レビュアーだが、ここまで好みにフィットする本には久しぶりに出会った気がする。あまりの面白さに、読み終えるのが惜しいと感じたほどだ。「夏だからちょっと怪談を読んでみたい」という一般読者にも、怪談にはちょっとうるさいぞというマニアにも、自信をもってオススメしたい一冊。

文=朝宮運河