世界中の「呪われた土地」の物語――かつて何かが起きた、そしてこれから起こるかも…

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2018/8/18

『呪われた土地の物語 かつて何かが起きた、そしてこれから起こるかもしれない40の場所』(オリヴィエ・ル・カレ:著、鳥取絹子:訳/河出書房新社)

 世界旅行をするとしたら、どこへ行きたいだろうか? 落ち着いたヨーロッパの街並み、波がまぶしいビーチリゾート、南米の神秘的な遺跡、オセアニアの雄大な自然……世界には、一生に一度は訪れてみたい美しい場所がたくさんある。しかし世界には、もうひとつの顔もある。『呪われた土地の物語 かつて何かが起きた、そしてこれから起こるかもしれない40の場所』(オリヴィエ・ル・カレ:著、鳥取絹子:訳/河出書房新社)では、人々が目をそむける、または人々が立ち入るのを許そうとしない、世界中の「呪われた土地」が紹介される。

 本書に登場する「呪われた土地」は3タイプにわけられる。宗教的・超自然的な物語が語り継がれる土地、あらゆる自然現象が人間を襲う土地、人間のせいで住めなくなってしまった土地だ。ひとたび本を開くと、ジャーナリストであり航海者でもある著者に連れられて、わたしたちは「呪われた土地」40か所をまるで航海をするように覗いていくことになる。

 スタートは旧ヨーロッパの中心から。地中海地方へ出てアフリカ大陸へ渡り、インド洋を進む。そしてアジアとオセアニアを訪れ、アメリカ大陸を横切り、大西洋の風にのってヨーロッパの岸へと戻る。そんな航海の道中に目の当たりにする「呪われた土地」のいくつかをピックアップしてみよう。

◆オーの断崖(フランス北部)

 はじめて聞く土地だったので、インターネットで検索してみた(うまくヒットしない場合は「Falaises d’Ault」で探してみてほしい)。表示された写真に思わず息をのむ。垂直にけずりとられた白い崖肌、複雑にうねりながら遠くへ伸びてゆく崖の切り口、そして崖すれすれまで密集するヨーロッパ風の街並み。人の住む街と、広大な海という二つの空間の間に、オーの断崖は異様な迫力をもってそびえている。この崖が取り上げられるのは、単にその個性的な景観のためだけではない。数世紀もの間、もろい白亜質でできたこの断崖はイギリス海峡の波にのまれ、大きくけずられてきたのだ。かつてこの地で栄えた漁村も、浜辺に並んだブルジョワジーの別荘も、すべて強風と大波によって流された。ヴィクトル・ユーゴーは「オーの町並みはなんとか抵抗しているが、断崖は粉々になって飛び散っていく。村の一部はすでに岩の割れ目からぶら下がっている」と壮絶な光景を書き残したという。100年間で実に100メートル以上が失われた陸地では、現在も迫りくる波を眼下に、生活が営まれている。

◆ジャリア(インド北東部)

 ジャリア周辺は、かつて炭鉱として栄えていた土地である。石炭の廃坑は、坑道をきちんと閉鎖しないと火災の恐れがあるという。ジャリアはこの炭坑火災に見舞われた土地なのだが、その規模が桁外れだ。地下数百ヘクタールにわたって炎が燃えさかり、火元は判明しているだけでも70か所、その上や周辺に50万人近くの人々が暮らしている。ほぼ1世紀にわたって地下に炎が広がりつづけるこの場所では、ときに地表の温度が50度近くにのぼり、割れた地面のすきまから有毒ガスが絶えず噴き出すという。火災の規模が大きすぎて、1世紀もの間まったく手出しができなかったのだ。ジャリア(またはJharia)の名で調べてみると、黒ずんだ地面や赤くほとばしる炎のすぐそばに、子どもたちがたたずむ写真が多くみられる。この地は貧困地区でもあり、引っ越すだけの経済力のない世帯が、現在でも炎のすぐそばに住み、採掘や石炭拾いで生計を立てているためだ。

 本書では他にも、ヒッチコックの名作映画さながらコウモリが大量に襲来する「カサンカ国立公園」(ザンビア)、かつて大量虐殺があった島「フートマン・アブロラス」(オーストラリア)、解体を待つ原子力潜水艦の群れが眠る「ザーパドナヤ・リツァ」(ロシア)、日本でもたびたび話題になる「バミューダ・トライアングル」などが、土地にまつわる忌まわしい物語とともに紹介されている。日本代表は山梨県「青木ヶ原」だ。

 秘境、呪われた土地という言葉には、わたしたちを惹きつけてやまない魅力がある。本書はそんなわたしたちの好奇心をしっかりと満たしてくれる一冊だが、同時に人間がこれまでおこなってきた数々の所業の恐ろしい帰結や、わたしたちが直面せざるを得ない未来もつきつけられる。著者の言葉を借りるならば、本書にあるのは「神も悪魔も予測さえできなかった数多くの地獄」であるとともに「人間の恐ろしくも複雑なものがすべて凝縮しているのを見いだし、未来につながる結論を導きだす」ことができる事例なのだ。

文=市村しるこ