日曜日にポルノ小説を書いて、年収100万円アップを目指す!? 今までにない「副業ノウハウ本」

文芸・カルチャー

公開日:2018/8/19

『日曜ポルノ作家のすすめ』(わかつきひかる/雷鳥社)

 副業を認める会社が増えるにつれ、多くの社会人が本業とは別の収入源を模索するようになりつつある。投資やブログ、アルバイトでコツコツと貯蓄していくのもいいだろう。だが、「日曜日だけの仕事」で「年収100万円アップ」という破格の副業はなかなかない。

「ポルノ作家ならそれが可能である」とわかつきひかるさんは説く。著書『日曜ポルノ作家のすすめ』(雷鳥社)は、兼業ポルノ作家としてスタートし、「週末に執筆を行って本業と両立させていた」わかつきさんの経験則が伝授されていくノウハウ本だ。今までポルノ小説を読んだことがなかった人も、文章を書きなれていない人も、本書を片手に「兼業作家」を目指してみてはどうだろうか。

 本書には、「なぜポルノ作家が狙いどころなのか」「どうすればポルノ作家になれるのか」「ポルノ小説はどうやって書くのか」といった、具体的な方法論が収められている。まず、「ポルノ作家を狙うべき理由」だが、わかつきさんは「採算がとれるからだ」と書く。時代小説などの他ジャンルと違い、ポルノ小説は基本的に取材を行う必要がない。また、大量の資料を用意しなくても、エッチな妄想さえできれば小説は完成する。

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 そのうえ、新人賞だと「そもそもポルノ小説の体裁を保てていない」応募作品が圧倒的に多いため、基本を押さえた作品さえ書けたなら賞を獲得できる可能性が高いのだ。このあたりは、「ポルノ作家のなり方」にも関わってくる。まずは、しっかりとエッチで、魅力的なヒロインが描写されたポルノ小説を書けるようになるところから始めよう。新人賞以外にも、ウェブに発表してスカウトを待ったり、出版社に持ち込みをしたりと、ポルノ作家になる道は多岐にわたる。

 そして、肝心の「ポルノ小説の書き方」だが、さすが本職のポルノ作家であってこの部分が本書で一番濃厚だ。「ポルノ小説ではありません」「ポルノ小説ではNGです」と著者が挙げていくリストがすさまじい。「エロがない」「エロシーンがエロくない」のがダメなのはまあ、予想できる。しかし、「女性警察官・女性自衛官」など「お上」を刺激しやすいヒロインを避けるべきとは驚きだった。また、エロの一大ジャンルである「ロリ」も、法律に配慮して出版できにくくなっているという。男性読者が実際に父親や祖父であることも多いため、ヒロインは成人女性が好まれる傾向にあるのだ。

 ポルノ小説の概念を学んだところで、「フレームワーク」や「起床転結」「序破急」といった専門用語を用いながら、ストーリーづくりに進んでいく。このあたりは、ポルノなど関係なく完全に「小説技法」である。ただし、違うのは通常の小説と違い、ポルノ小説はエロのために存在している点だ。たとえば、こんな指南は普通の小説技法には出てこないだろう。

エロとストーリーの黄金比率は6:4です。一章にひとつエロシーンを入れて、抜きどころを作るようにしましょう。

 そのほか、本書の終盤ではプロになった後のさまざまな問題についても対策を教えてくれる。「本業とどうやって両立するか」「確定申告はどうするか」「税理士を頼むならどうやって見つけるか」など、これまでの「小説家になるための本」では紹介されてこなかった内容ばかりだ。

 どうして、こんなにも実践的な内容になっているのかというと、やはり「副業としてのポルノ作家」というテーマが掲げられていることに尽きるだろう。男女にかかわらず、誰もが日常でふとした妄想にとりつかれる瞬間はあるはず。それをお金に換えられるポルノ作家は、ある意味でもっとも効率的な副業といえるのかもしれない。なお、同時収録された、編集者や現役作家・黒名ユウさんへのインタビューもたいへん参考になった。

文=石塚就一