シンデレラはハッピーエンド、もののけ姫はセクシーエンド? 結婚と恋愛の両立問題

恋愛・結婚

公開日:2018/8/29

『目もと隠して、オトナのはなし 30代も半ば、シガラミと恋、ここは東京。』(LiLy/宝島社)

「オトナミューズ」で連載されている人気エッセイ『目もと隠して、オトナのはなし 30代も半ば、シガラミと恋、ここは東京。』(LiLy/宝島社)の第2巻が、ついに書籍化された。

 20代という青春を越えて、なんとなくゴールのように考えていた30歳から、「女子はどう生きる?」。むしろ、30代からが「旬」だ! 40歳に向かってどんどん幸せになろう!……だけど、人生はそんなに簡単ではなくて。

 30代から40代の女子(敢えて女性ではなく、女子と言わせてもらいたい)は、ある程度の人生経験も積み、「色々分かっちゃう」からこそ、大っぴらに話せることも少なくなってきた。情熱に突き動かされて、なりふり構わず行動することも難しい。

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 オトナの「責任」がある。だけど、オトナとしての「自由」も欲しい。その妥協点はどこにあるのだろうか?

 目もとを隠して、小声で、まずはオトナ女子の本音を話しましょう……というのが、本作の全体を通してのテーマである。

 前作に続き、今作も「刺さった」。「そうなんだよね~!!」という共感もあり、「それは考えたことなかったわ」という「気づき(驚き)」もあり、取りあえず一回読んで、もう一回読んで、気になったエッセイをもう数回……と、何度も何度も読み返したくなるような内容である。

 全部で23編のエッセイが収録されている本作。中でも「孤独と恋と人生と」「愛にも似たぬくもり」「女とリズム」「色気か幸か。」「複数恋愛と博愛主義」が特に好きだった。

「色気か幸か。」で語られる「『シンデレラ』がハッピーエンドなら、『もののけ姫』はセクシーエンド」という話には、そんな風に考えたことがなかったので、驚きと共に、かなり「納得」した。

「愛する王子様とずっと一緒に暮らす」というのが、シンデレラの結末。好きな人と一緒にいられることは、疑いようもなくハッピーなことだ。

 一方で、もののけ姫のアシタカとサンは、お互いに惹かれながらも、それぞれの生き方を貫き通す。一生会わないわけではないけれど、シンデレラのように一緒には暮らさない。

「毎日会いたいと思いながらも自分の生活をする。やっと会えたその瞬間には、積もった切ない想いが互いを求める熱を加速させるだろう」と著者は語る。ハッピーエンドのパンパンに満ちた状態に反して、こちらは満ち足りていない。この状態こそセクシーなのだ。

 ハッピーとセクシー。どちらの恋愛が「いい」のだろうか?

 ハッピーの方がいいじゃんと思われるかもしれないが、ハッピーは長続きしない。セクシーが永遠に続けられる恋愛というわけではないが、「一緒には暮らさず逢い引きを繰り返す」というのは、男女の恋愛を長続きさせる秘訣でもある。

 これは、「結婚生活」と「恋愛」のバランスにも通ずる話だ。

 著者のLiLyさんは離婚を経験している。「一生愛し愛される相手を持つこと」=「結婚」。そういった「結婚」というものに「永遠の夢」をみたけれど、思うようにいかなかった。エッセイではもっと丁寧に書かれていることを、敢えて雑にまとめさせてもらうと、夫と恋愛関係を続けられなかった。「家族」になってしまったのだ。

 結婚はシンデレラ的ハッピーだ。しかし、瞬く間に男女を家族にしてしまう。それも別のカタチのハッピーエンドなのだが、そうではない、もののけ姫的セクシー恋愛を求める既婚女子の気持ちも分かる。

 どちらを選ぶのかは、結局自分で選択するしかない。LiLyさんは「どんな男女であれど一定の期間のみ、限られた時間内での両立が可能」と綴る。

 う~ん……この「結婚生活と恋愛問題」は、すごく、すごく難しい。漫画の『1122』(渡辺ペコ/講談社)も、突き詰めれば同じ問題を題材にした物語だと思う。それだけ、今、多くのオトナ女子が直面している悩みなのではないだろうか。

 本書を読んでいると、その問題の根深さと、それに葛藤しつつ、大人としての責任と、自由の狭間で揺れるLiLyさんが、リアルタイムに想ったことや悩んでいることを、自分事のようにひしひしと感じられた。

 エッセイなので、問題を解決してくれるわけではない。

 けれど、一人の女性としてカッコ良く生きているLiLyさんの綴る文章は、共感できることはもちろん、むしろ、自分には「理解できない」ことでも、胸に刺さる。

文=雨野裾