世間の常識や偏見から解放された「第4の居場所」! ネットラジオ「ゆめのたね」とは!?

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公開日:2018/8/29

『SNSを超える「第4の居場所」』(岡田尚起・佐藤大輔/アンノーンブックス)

「第3の居場所(サードプレイス)」という言葉をご存じだろうか? 家庭(第1の居場所)、仕事場や学校(第2の居場所)に次ぐ、心地よい居場所のことだ。強制や義務ではなく自主的に参加し、不特定多数との交流を通して共感や生きる励みが得られる場所である。

 人が孤立せずに豊かに生きていくために必要な場所であると、1991年に発表された自著でアメリカの社会学者、レイ・オルデンバーグが提唱し、スターバックスの元CEOハワード・シュルツ氏も共感して、スタバをサードプレイスと位置づけたことは有名な話だ。

 一方近年では、スマホの普及でより身近になった、SNSも新たな第3の居場所になっているという意見もある。

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 本書『SNSを超える「第4の居場所」』(岡田尚起・佐藤大輔/アンノーンブックス)の著者のひとりである佐藤氏も、当時主流だったミクシィに参加して、メッセージ交流の良さを知ったという。しかしヴァーチャルが基本のSNSは、「温度のある関係が薄い」と記している。

■「第3の居場所」を超える「第4の居場所 ゆめのたね」とは?

 そこで登場するのが「第4の居場所」という発想と、その拠点となる「ゆめのたね」というインターネットラジオ局(2015年6月1日開局)である。現在(18年8月時点)、全国7カ所に「ゆめのたね放送局」があり、全国から561名のパーソナリティ(発信者)が参加しているという。

 本書には、著者の2人が「ゆめのたね」を始めたきっかけや、そこにどんな人々が集い、どんなコミュニティをつくろうとしているのかなどが熱く綴られている。

 では、著者たちが提唱する「第4の居場所」とはどういうものか。それを教えてくれるのが、パーソナリティとなった人たちのバックグラウンドだ。

 本書には、数名のパーソナリティ紹介が記されている。例えば、性同一性障害や性的マイノリティとしての悩みを抱えるLGBTの人。彼らは、第3の居場所に参加してみたものの、世間の常識や偏見によって、居心地の悪さを感じてしまう人たちの代表格である。また、一見ごく普通なのだが、性格的に正義感が強すぎて周囲と協調できずに転職を繰り返す人、極度のオタクや引きこもりのため社会から孤立した人、重度の障害があって行動が制限されてきたため、本当にやりたいことができずにいた人なども登場する。

 そんな彼らは「ゆめのたね」でパーソナリティをすることで、社会との接点や人との縁が生まれ、人生に輝きを取り戻していく。

 つまり「第4の居場所」とは、どんな人にも偏見なくありのままを受け入れ、可能性や夢を語り合える場所であり、利害を考えずにその夢を応援する場所なのである。

■自分の言葉で語るからこそ、聞き手に届く

「ゆめのたね」にはプロのパーソナリティはいない。全員が素人で、月1万円の会費を払うことで放送枠を買い、自分が放送したいことを独自規定の範囲内で自由に発信する。

 本書によれば、会費やパーソナリティになるための3カ月研修費の収益は、全国7カ所の放送局の維持管理費に充てられ、広告収入もないため、著者たちはそれぞれが自己啓発セミナーや音楽イベントを本業にして、生計を立てているという。

「ボランティアでは続かない」と思う人もいるだろう。しかし、著者の岡田氏の発想は違う。営業マン時代、タイム・イズ・マネーではなく、「マン・イズ・マネー」(人の縁こそ財産)という発想で仕事をして好成績が残せたという。ボランティアでも、人が集まれば縁が生まれ、そこから目標を達成するための助け合いやサポートが生まれていくのだという。

 ではなぜ、ラジオなのか、SNSとはどう違うのか。著者の佐藤氏はこう語る。

「自分の言葉で語るからこそ、聞き手の心に届くと私は思っています。いくらきれいな文章で書いたとしても、それはどこかで飾られたり、色づけられたりするものです。でも、話すことは誤魔化すことはできません」

 本書で初めて「ゆめのたね」を知った筆者は、さっそく放送を聞いてみた。その時オンエアーされていたのは、「感謝の気持ちを伝える」という番組だった。一般の老若男女がゲストとして登場し、家族へ、パートナーや友人へ、自分などへ、と思い思いに普段は言えない感謝の気持ちを述べていく。

 ある小学生の少女は、「お父さんに、いつもありがとう」と順調に出だしを語った直後、思いが一気に込み上げて嗚咽交じりになり、その後はもう聞き取れる言葉にならなかった。

 しかしリスナーには、しっかりとその思いが届いたし、スタジオ内からも大きな拍手が沸き起こった。SNSとは違った、温もりや肌感覚を感じた瞬間だった。

「ありがとう」がいつも溢れている場所、それが「ゆめのたね」であり、「それが人を引き寄せていることが自慢」だと記す岡田氏。本書には他にも、著者の2人がこれまでに歩んできた道のり、理想的な社会への思い、現在7カ所の拠点を47都道府県のすべてに置くという将来の目標、未来への希望などが記されている。

 最近、某政治家が「LGBTは生産性がない」と発言した。もちろん、偏見は誰もが克服すべき課題だろう。その解決に向けた第一歩を踏み出したい人、また、第3の居場所が見つからないという方は、本書やゆめのたねの放送をぜひ、チェックしてほしい。きっと価値観を大きく変え、人々の豊かさ、そして自分自身の可能性にも気づかせてくれるだろう。

文=町田光