働かなくてもいい未来、人はそれでも職を求めるのか?『横浜駅SF』で話題の著者最新作!

文芸・カルチャー

2018/8/29

『未来職安』(柞刈湯葉/双葉社)

 働かないで生きていきたい。忙しい現代人ならば、誰もが一度はこう願ったことがあるのではないだろうか。仕事をせず、好きなことだけをして暮らす。それはまるで夢のような日々だ。しかし、そんな日々が現実のものとなったとき、人は本当に幸せになれるのか。

 気鋭の作家・柞刈湯葉さんの新刊『未来職安』(双葉社)は、労働をする必要がなくなった近未来を舞台にした、一風変わったユートピア小説である。

 2016年、柞刈さんは『横浜駅SF』(KADOKAWA)でデビューした。同作は、改築工事を繰り返す横浜駅が自己増殖を開始し日本列島を覆い尽くす、という奇想天外な設定のもとに書かれたSF小説。SNSでも話題を集め、新人作家のデビュー作としては異例の大ヒットを記録した。

 類まれなる発想の持ち主である柞刈さん。待望の新作で描かれているのが、99%の「消費者」と1%の「生産者」とで構成される、平成よりちょっと先の未来にある日本だ。国民には厚生福祉省より「生活基本金」が支給されており、最低限度の暮らしが保証されている。しかし、それはあくまでも最低限度。その金額の少なさに憤慨した国民によるデモも起き、満足いく世の中になっているというわけではなさそうだ。一方で職業を持つ生産者はエリートとされており、生活基本金以外に収入があるため、消費者と比べ、とても裕福に暮らせている。

 そんな世界において、主人公・目黒は生産者に分類される側に立っている。彼女が勤務するのは、職安(ただし、職安での収入はほとんどないため、彼女自身は裕福とは言いづらいが)。物語はその職安を舞台に、仕事を求める奇妙な客人たちと目黒とのやり取りが描かれていく。

 こうしてまとめてみると奇抜な設定だけが先行しそうだが、本作で訴えかけているのは、「常識を疑う」ということだ。人はなぜ働くのか、なぜ結婚するのか……。普段、当たり前のように受け止めている常識が、奇妙な世界のなかで揺らいでいく。

 ただし、本作ではそこに明確な答えを提示しない。それに結論を出すのは、あくまでも読み手側だ。どこか飄々とした目黒の目線で語られる物語は、そのときの状況や心境によって、大きく印象が異なるだろう。だからなのか、本作は何度も読み返したくなる不思議な読後感を持っている。

 奇しくも、AIがさまざまな職業の代替となりうる可能性が叫ばれている昨今。もしかすると近い将来、本当に働かなくてもいい社会を迎えるかもしれない。しかし、それが現実となったとき、人はそれでも労働を求めるのだろうか。あるいは堕落していくのか。本作を「ユートピア小説」と紹介したが、もしかすると、人によってはディストピア小説と感じるのではないか。そんなことを思いながら、本作を読み終えた。……さて、仕事するか。

文=五十嵐 大