「あったことをなかったことにはできない!」元文科省事務次官・前川喜平の生き様

社会

2018/8/30

『面従腹背』(前川喜平/毎日新聞出版)

 教育は誰のためにある? その人個人のため? それとも国家のため? その人の秘めている能力を最大限に引き出し、伸ばしてあげるのが、教育の役目だと思う。

 文部科学省を事務次官まで昇りつめた前川喜平氏は、退官後、それまでの官僚生活を振り返って『面従腹背(めんじゅうふくはい)』(毎日新聞出版)を上梓しました。

 前川氏は「まず何よりも『個』が大切で、日本国憲法も『個人の尊厳』を至高の価値として認めることを大前提にしている」と、本書の中で述べています。「子どもは学習し成長する権利を憲法上の権利として持っている」そうです。

■加計学園問題で、自らの信念を貫く

 前川氏は、加計学園問題で、一気に話題の人となりました。「あったことをなかったことにはできない」と述べた会見は記憶に新しいところでしょう。この本では、加計問題に直接触れてはおりませんが、官僚時代の仕事に対する姿勢を語ることで、自分は嘘偽りを決して言わないという信念を読者に訴え、加計問題での一連の発言が偽りでないことを証明したかったのかもしれません。

■教育勅語の復活に憂慮する

 本書によれば、最近、「教育勅語」を復活させる動きが見られるそうです。森友学園問題で園児が教育勅語を暗唱している映像を見て衝撃を受けた人も多いことでしょう。

 教育勅語の考え方は、天皇が頂点に立つピラミッド型の国家体制を前提としています。一般庶民は、底辺で国を支える土台の役目を担わなければなりません。ですから、個人よりも家族、家族よりも国家が大事ということになります。

 教育勅語でいう教育とは、国家に役立つ人材づくりの場であり、勅語からは、教育は国家のために行われるべきという思想を感じ取ることができるそうです。森友問題の根底には、安倍首相らの教育勅語に対する思いが潜んでいるのかもしれません。

■公務員である前に、ひとりの国民でありたい

 役人には、時の政府の方針に従うことが求められています。しかし、その政府が間違った方向に向かおうとしていると感じたら、どう行動したらいいのでしょうか。前川氏は、本書で3つの答えを用意しました。自分を殺して政府に従う。一応イエスと答え、できうる範囲で自分が考える方向での修正を加える。役人をやめる。この3つです。前川氏は、2番目の道を選んだそうです。「面従腹背」を役人としての行動指針としたのです。

■面従腹背から「眼横鼻直(がんのうびちょく)」へ

 公務員をやめた今、前川氏の座右の銘は、面従腹背から「眼横鼻直」に変わったとあります。この言葉は、禅宗の祖・道元禅師の言葉です。目は横に、鼻は縦についています。あるべき姿をそのまま受け入れるという意味だそう。

 国会で、木で鼻をくくったような答弁を繰り返すのではなく、前川氏のような気骨ある発言をする政治家が増えれば、日本は別の方向に進むかもしれません。

文=今眞人