万引きや自殺の練習まで…大津中2いじめ自殺事件の真相とは?

社会

2018/9/1

『大津中2いじめ自殺 学校はなぜ目を背けたのか』(共同通信大阪社会部/PHP研究所)

 いじめが殺人事件にまで発展することもあり、目を覆いたくなるような悲しい事件がマスコミに取り上げられることも多い。そんないじめにまつわる事件の中でも、筆者の心に強く残っているのが「大津中2いじめ自殺事件」だ。

 今から7年前の2011年10月11日の午前8時すぎ、ひとりの少年の命が消えた。大津市の公立中学校に通っていた中学2年生の健次くん(仮名)はその日、自宅マンション14階の手すりを乗り越え、自らの命を絶った。

 当初、両親はこれを事故死だと考えていたが、クラスメイトの親たちからいじめがあったことを聞かされ、息子が自殺を決意するまでに至った経緯を知りたいと思うようになった。

『大津中2いじめ自殺 学校はなぜ目を背けたのか』(共同通信大阪社会部/PHP研究所)は、そんな遺族の声に耳を傾けながら、健次くんが受けたいじめにはどんな背景があったのかを丁寧な取材で明らかにした問題提起本である。本書では、想像を絶するほどの悲惨ないじめの事実が浮き彫りにされている。

■いじめが起きたのは地域一のモニター校

 健次くんが通っていた中学校は文部科学省の道徳教育研究指定校にも選ばれ、常に「地域の一番校」としてモニターされるほどの存在だった。学校側は「いじめをしない、させない、見逃さない、許さない学校」と謳い、いじめが発生したとき迅速に対応ができるよう、詳細なマニュアルも備えていた。

 メディアで責任を追及されることが多かった担任教師も、生活態度や顔つきが徐々に変わっていった健次くんを注意深く観察していた時期があり、1週間に一度は「教育相談」というスタイルをとって、放課後に話を聞くようにしていた。

 そして、クラスメイトたちも健次くんへ暴力を加える加害者に「健次のこと嫌いなん?罰ゲームかもしれないけど、いきすぎたらいじめになるよ」と諭すメールを送ることもあったようだが、結果的にいじめはなくなるどころかエスカレートしていき、健次くんは遂に「自殺の練習」をさせられるまでになってしまった。

 加害者はいじめていることを教師や親、クラスメイトに知られると、より陰湿に激しく被害者をいじめるようになっていくことも多いため、長期化するほどいじめは徐々に発見しづらくなっていく。被害者も周囲に迷惑をかけたくないと思ったり、いじめられていることが情けなく感じられたりして、事実を隠してしまったりする。健次くんももともと優しく、ムードメーカーな性格であったため、周囲に助けを求められなかったのかもしれない。

 こうした特性を持つため、いじめはもはやひとりの教師や親が単独で奮闘するだけでは、手におえない問題にまでなっている。実際に、健次くんの担任教師も他の教師とうまく連携を取れておらず、他の教師が目撃した健次くんたちの“じゃれあいに不釣り合いな緊迫感”を感じることはできず、いじめに関して父親との話し合いの場を設け、対策を練るまでに至れなかった。

 思春期の子どもには、断片的では見えない繊細さがある。家庭環境の悪化や友人関係の些細なトラブルなど、いじめの引き金となる問題は日常の中でいとも簡単に生み出されてしまうことも多いので、子どもの異変を少しでも感じたらすぐに相談し、助け合えるネットワークを大人が築いていくことが必要だ。騒動の火消しに躍起になるよりも、教師同士や学校と親が連携し、子どもの心を見つめていくことが大切なのではないだろうか。

■いじめからは逃げてもいい

 本書の中で明らかとなった健次くんへのいじめは、大人の目から見ても悲惨だ。こうしたいじめを行っていたのが、もとは仲良くしていた友達であったことも健次くんが死を選んだ理由のひとつでもあるように感じられる。

 いじめによってかけがえのない命が消えていくたび筆者はいつも、いじめをなくすことはできないのかと苦しくなる。人間としての尊厳を奪い、死が頭をよぎるほど心をズタズタに傷つけるこの行為が見逃されてしまったら、被害者はどこに助けを求めればよいのだろう。

 加害者にとっては、ほんの数年のいじめ。しかし、被害者にとってはその数年が永遠とも思えるほど長く感じられる。実は筆者自身も中学時代にいじめを受けたことがある。時計の針が刻まれていくたび、明日が迫ってくるような恐怖感に襲われ、学校に行けなくなった時期があった。だが、生き抜いていけば、幸せだと言える日はやってくるのだということも身をもって知っている。受けた傷は消えないが、生き延びていけば心から笑える日はやってくる。

「学校に行かないですむ方法ないかな」「暗くて静かな山の中に行ってひとりで死にたいねん」という生前の健次くんの言葉に自分を重ね合わせる人は、どうか負けずに戦うのではなく、逃げることで命を紡いでほしい。心の殺人ともいえるいじめからは逃げてもいい。現在、耐えがたいいじめに苦しんでいる方は自分の心が楽になる解決法を最優先していこう。

文=古川諭香