「親なきあと」、障害のある子はどう生きるか? 親が我が子のためにできること

出産・子育て

公開日:2018/9/27

『障害のある子の「親なきあと」』
(渡部伸/主婦の友社)

「この子は、私が死んだらどうやって生きていけばいいのだろう…」我が子に障害があると、親は常にこんな不安を抱えている。子どもの成長は、親としてもちろん嬉しいものだが、成長につれて、「将来への不安感が強くなってしまう」という親御さんも多いのではないだろうか。

 こうした漠然とした不安に押しつぶされそうになる前に、親が死んだ後に障害のある子はどう生き抜いていけばよいのか、「親あるあいだ」に親は何ができるのか。それらをまとめた『障害のある子の「親なきあと」』(渡部伸/主婦の友社)を手に取ってみてほしい。

 著者である渡部伸氏は自身も知的障害者の子どもを持つ。全国をかけまわり多数の講演を続けている渡部氏は「親なきあと」相談室の主催者として、障害のある子の家族が抱える不安や悩みに耳を傾けながら、これまでに『障害のある子の家族が知っておきたい「親なきあと」』(主婦の友社)と『障害のある子が「親なきあと」にお金で困らない本』(主婦の友社)を執筆してきた。社会サービスの相談先が、ジャンルごとに別れていることもあり、個人で相談したり、調べたりするのにはかなりの労力を要する現状。「できること」をまとめたこの本は大きな反響を呼んだ。

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 本書は既刊の2冊で紹介した内容に、最近の法制度の改正や民間サービス、地域での取り組みなどの最新情報を加えたもの。親なき後でも我が子が健やかに暮らせるかどうかは、「親あるあいだ」の準備にかかっている。経済面や生活面で将来の我が子が困らないために、親は今どんなことをしていけばいいのだろうか。

■お金を遺すより、本人のために正しく使われる仕組みを作っていこう

 障害を持っているために就労できないこともある。そのため、我が子が生涯にわたり安心して生活できるよう、お金をたくさん遺さなければならないと考えている親御さんは多いはず。

 しかし、渡部氏いわく、本当に大切なのはまとまった金額のお金そのものを遺すことではなく、遺したお金が本人のために使われる「仕組み」を準備しておくことなのだそう。

 なぜなら、障害者は様々な場面で福祉の支援が受けられ、最低限度の生活ができるような社会保障がなされている場合が多いからだ。また、資産を持っていると逆に浪費癖がついたり、だまし取られてしまったりするケースもある。そのため、親は自分が元気なうちに、我が子の収入と支出を大まかに算出し、必要なお金を用意したり、助成を受けるための手続きを行ったりしていこう。

■将来に備えた手続きは「今」しておく

 例えば、障害者の収入である障害者年金や各種手当などは事前申請が必要なので、今のうちから受け取れるよう、手続きをしておかなければならない。そして、将来の支出となるであろう、住居費や光熱費などの固定費は助成や減免措置が受けられるので、手続きしておこう。万が一、大きな病気を患ったときには医療費が多額になる可能性があるので、障害者でも入れる保険会社を探していくことも重要だ。

 なお、お金を遺すときは適切な時期に適切な金額が手元に渡るよう、信託や成年後見制度、日常生活自立支援事業を活用し、お金を管理できる仕組みを作っていこう。

 それぞれの制度には違いがあり、お金の遺し方にも選択肢がたくさんあるので、どの方法が一番我が子に合うのかを考え、金銭面の不安を少しでも解消していってみてほしい。

■「親あるあいだ」になにができる?

「障害を抱えている我が子の将来のために何かをしなくては…」とは思っていても、具体的にどう動いたらよいのか分からない親御さんも多いはず。特に、自分自身まだ元気に過ごしている状況だと、いつか来る「親なきあと」が実感しづらい。

 しかし、「そうした状況のときにこそ、『親なきあと』を家族みんなでシミュレーションしてみたり、ショートステイを使用して障害のある子にひとり暮らしの練習をさせていく機会を設けたりしてみてほしい。」と、著者は言う。

 シミュレーションする場合は自分が亡くなった後にどんな制度を利用するのか、子どものお世話やお金の管理を誰に任せるのかを具体的に考え、これから向き合わなければいけない課題を明確にしてみよう。精神的に不安を感じないようであれば、シミュレーションには子ども本人も交えるのがポイントだ。

 そして、ショートステイは、お互いが離れて暮らすことに慣れるためにも必要である。障害のある子の中には、初めての環境や見知らぬ人に対して大きな不安感を抱いてしまう子もいるので、徐々に環境の変化に慣れていけるような仕組みを作っていこう。ショートステイ中に我が子が将来、安心して支援を受けられるよう、本人の必要な情報をまとめた「ライフスタイルカルテ」(略称:ラスカル)の作成に取り掛かるのもよい。

■「ラスカル」に好き・嫌いまで詳しく書いておく

 突然の事故や災害などで親が急にいなくなってしまうと、遺された子どもは行政などの支援者によってサポートしてもらえるが、その子に関する情報が何もないと適切なケアを受けられない可能性が高い。だが、ラスカルがあれば、支援者に子どもの情報を詳しく伝えることができ、安心して生活できる環境を与えてあげることができる。

 ラスカルには氏名や住所などの基本情報だけでなく、子どもの好きなことや苦手なこと、コミュニケーションの取り方なども詳しく記載しておこう。

 なお、ラスカルの考えを具体化した「親心の記録~支援者の方々へ」というノートは制作元である一般社団法人 日本相続知財センターが、希望する団体に無料で配布しており、公式HPで詳しく見ることができるので、気になった方はぜひチェックしてみてほしい。

 親である以上、子どもの行く末を最期まで見届けたいという想いは消えないが、現実的にそれを叶えるのは難しい。しかし、我が子の将来の幸せを守れる対策は今日からでも行っていくことができる。親御さんの中には、ひとりで我が子の将来について悩んでいる方もいるかもしれないが、行政の窓口や同じ立場の親同士で相談しながら、“親あるあいだにできること”を一緒に見つけていこう。

文=古川諭香