「安楽死」を医師がほう助するのは正義か、殺人か——「暮らしの小説大賞」受賞作『死神の選択』

文芸・カルチャー

2018/10/15

『死神の選択』
(嘉山直晃/産業編集センター)

 第5回「暮らしの小説大賞」に寄せられた739の応募作の中から、大賞に選ばれた嘉山直晃氏による「浜辺の死神」が『死神の選択』のタイトルで発売された。「死の権利」を守る法律「DR法」が施行された世界を舞台に、「安楽死」や「尊厳死」といった重くなりがちなテーマを繊細かつ柔らかな筆致で綴った感動作だ。

「DR法は、国民の『死の権利』を守るために、二年前に施行されました。全ての人が、必ず最後に取る、『死』という行動の自由を保障するのが『死の権利』です」

「DR」とはDying Rightの略で、つまり死の自由を保障する権利。全ての人は、さまざまな理由から生き続けることが困難だと感じ、しかるべき手続きを経てそれが認められた場合、この権利を行使することができるというもの。彼らの死をほう助するのはDR専門医の仕事だ。

 施行から2年。権利を行使する人が増える一方で、「DR法」に対する疑問や批判の声は高まりつつあった。千葉県ののどかな海辺の町で「DR専門医院」を営む35歳の若き医師・神恵一が「死神」と呼ばれるのもそうしたゆえんだが、彼はそんな逆風に耐えながらも医院を訪れる人の心にとことん寄り添い、最期を看取るときには相手の体が冷たくなるまで握ったその手を離さない。

 延命か尊厳死か、はたまた投身自殺か安楽死か──。

 自らの死にざまを模索する終末期の患者や高齢者、経済的・精神的に生きる術を失った男女といった「死」に近い場所にいる人々と、「DR法」に携わる病院関係者や役人たち、さらにこの法律に異論を唱える市井の人々と神恵一の関わりを見つめながら、物語は結末へと進んでいく。「死神」が苦渋の選択をしながらDR専門医としての職務をまっとうするたび、私たちは感動とモヤモヤの狭間を行き来することになる。

 誰にも迷惑をかけずにこの世を去ろうとする人々を、苦しまずに旅立たせるのが恵一らDR専門医の仕事だが、法のもとに人を殺すというその行為は正義と言えるのか。あるいは恵一のような心優しい人間が人を殺さなければならない社会そのものが間違っているのか。もしも自分が当事者となった場合、はたしてどのような答えを出すのか。

 物語を読み進めながらも、疑問は次々湧き起こる。しかしモヤモヤとした気持ちや胸の痛みは、次第に明かされる恵一の過去や彼が紡ぎ出す言葉によって、スーッと消化されていく。そして最後には、感動の涙とともにみずからの手の温もりに安堵し、「生」を実感することだろう。本書を読む際は、ぜひその温度感を感じ取ってほしい。

文=村岡真理子