先天性心疾患を明るく生き抜く山田倫太郎くんの人生観とは?

暮らし

2018/10/16

『命の尊さについてぼくが思うこと』(山田倫太郎/KADOKAWA)

 突然だが、あなたは「障害者」にどんなイメージを持っているだろうか。世の中の多くの人は障害者に対して、病気で苦しんでいるというイメージを持っていたり、彼らにどう接したらよいか戸惑ってしまったりすることもあるだろう。しかし、『命の尊さについてぼくが思うこと』(山田倫太郎/KADOKAWA)を読んだ後では、印象がガラっと変わるはずだ。

 著者の山田くんは重い先天性疾患があり、13歳であった2015年に24時間テレビに出演。彼の中学生らしからぬ深みのある言葉は、大きな反響を呼んだ。また、「医者になりたい」という弟の言葉を聞いた山田くんが自らの体験をもとにし、患者が望む理想の医者像を記した『医者をめざす君へ』(東洋経済新報社)は医療従事者の間でも話題となった。

 本書には、そんな山田くんが歩んできた中学2年生までの歴史と人生観が詰まっている。こう記すと堅苦しく思えるかもしれないが、美人好きで膨大な知識量を持っている山田くんが紡ぐ文はユーモラスで読み進めやすい。人生の悩みに答えを与えてもくれる本には、クスっと笑えて心から泣ける“山田節”が溢れているのだ。

■ポジティブマインドを生み出した両親の愛情とは

 筆者が山田くんのことを知ったのは、2015年の24時間テレビだった。実は筆者自身も先天性心疾患があり、同じ手術を行ってきたため、山田くんの明るさとエネルギーはどこから湧いているのか、とても気になっていた。そして、この度、本書を手に取って感じたのが、山田くんのポジティブな心は両親の深い愛情によって育まれていったということだった。

 我が子に障害があると、親としては将来を考え、悲観的になってしまうこともあると思う。だが、山田くんの両親は障害の有無に関係なく、ありのままの彼を認め、全力で愛してきた。お父さんは初めて山田くんと対面した時、右目をそっと開ける様子を見て泣いたのだそう。障害など関係なく、生きて生まれてきたことや母子ともに生きていたことが何よりもうれしかったという。

 元看護士であったお母さんも、自分ですら知らない病名がずらりと並べられた説明書を見ても「今生きているならよい」と思ったそう。そして両親はその後、山田くんに包み隠さず持病を教えていった。両親のこうした想いが伝わっているからこそ、山田くん自身も自分の障害をネガティブに感じておらず、胸にできた手術の傷跡のことを金メダルだと語っている。

手術は、不安や恐怖でいっぱいだ。しかし、手術をした人は、不安や恐怖に勝ち、勇気を出して手術に挑んだ。手術の前後は、飲食をしてはいけないなどの注意事項がある。しかし、それを守るのはむずかしい。でも手術をした人は、それもがまんできたのだ。だから、手術の傷は金メダルだ。体にできた金メダルだ。

 手術によって大きな傷跡が体に残ると、つい隠したくなってしまうものだ。しかし、その傷は頑張って命を紡いできた証拠であるからこそ、誇ってもよいのだということを山田くんは教えてくれる。

 優しくも芯がある山田くんの言葉は、彼が毎日をしっかりと噛みしめながら生きているからこそ繰り出されるものだと思う。その証拠に、山田くんは修学旅行や家族旅行、当時の自分の心境や好きだったことなどを鮮明に覚えている。これはきっと、命の大切さや当たり前の幸せは当たり前ではないことを山田くんが知っているからだ。

 朝、普通に目が覚めることや好き嫌いできるほど食べるものを選べることは当たり前なように見えて、当たり前ではない。実際筆者も、手術後に自分の足で初めて地元のショッピングモールを息切れせずに歩くことができたときや紫色だった爪の色が周りと同じようにピンク色になったとき、当たり前な幸せは何ひとつないということを深く感じた。

 幸せはきっと、身近にありすぎるからこそ、見えなくなってしまうこともある。だが、自分が今ここに生きていることとほんの少しだけでも向き合うことができれば、世界の見え方は変わってくるはず。心が感じられる山田くんの言葉や彼の歩んできた人生を知れば、新しい視点で自分の人生を見つめることもできるだろう。

■差別は「知る」ことから無くしていく

 彼の人生観に大きな影響を及ぼしたのは、両親の愛情だけではない。担当医や看護師、学校の教員など、山田くんを取り囲む全ての人の愛情が彼を優しくたくましくしたのだ。

 主治医は山田くんが他の病院にかかることになったときに困らないよう、受診時に病気や薬について理解しているかをテストし、心臓の絵を使用して詳しく説明してくれたのだそう。

 こうした配慮は、患者側からしてみてもとてもありがたく思う。筆者が長年お世話になっていた主治医も小さな頃から心臓のイラストを使って、どのような手術をしてきたのかや現在飲んでいる薬にはどんな効果があるのか、どんなことに気を付けていったらいいのかを説明しながら「あなたの心臓は僕が太鼓判を押せるくらい優秀だから大丈夫だよ」と自信を持たせてくれた。そして、筆者が結婚するときには結婚相手に手術内容や現在の心臓の状態を話す場を設けてもくれた。こうしたささいな言葉や配慮が私たち患者の心には、とても深く染みるのだ。

 また、山田くんの担任となった先生は下級生からからかわれている様子を見かけたらすぐに助けてくれたり、入院中の彼を撮影し「倫太郎くん、治そうと、がんばる」という言葉を添えた写真をクラスに飾ったりしてくれたのだという。

「障害者」と接しようと思っても、どんな態度を取ったらいいのか戸惑ってしまう方も多いと思う。しかし、相手の障害に対して分からないことを素直に尋ね、理解していくことから寄り添い始めてみるのもよいのではないだろうか。そうすれば、差別や区別、偏見を持たずに目の前の相手と関わることができる。障害は共感をすることが難しいものだからこそ、「知る」ことから福祉の輪を広げていくことが大切なのだと思う。

 そして、障害者は自分を理解してもらうことやありのままの自分を見せていくことを諦めないようにしていけるとよいのではないだろうか。障害はハンディキャップとして捉えられやすいが、障害がある自分にしかできないことだってあるはずだ。現に筆者も自分の体験談を通して、健常者や障害者の心に少しでもなにかを与えられたらと思い、この記事を書いている。障害はたしかに背負っていかなければならない重荷となるが、個性として自分の強みにもしていけるものだ。

 自身の障害を通して人生や命の尊さを教えてくれる本書は障害の有無に関わらず、多くの人の心に希望と笑顔を与える1冊だった。

文=古川諭香