小説は「役に立つ」のか? その答えをあなたは説明できる?

文芸・カルチャー

2018/10/20

『小説は君のためにある』(藤谷 治/筑摩書房)

 世の中には「なんで本を読まなくちゃいけないの?」という純粋な子どもの(大人でもいいけれど)質問に答えてくれる本が、いっぱいある。納得できるものから、押し付けがましいもの、または「やっぱ本はいいよね!」と、読むモチベーションを上げてくれるものまで、色々ある。

『小説は君のためにある』(藤谷 治/筑摩書房)も、ざっくり言ってしまうと、そういった趣旨の本であり――とりわけ小説を読む「楽しさ」を教えてくれる1冊だ。

 本書では、圧倒的に読者を主体とした「自由な読み方」について語られている。「君が読まなければ、文学は存在しない」とまで、本書には書かれているのだ。

 そう。小説は誰かにオススメされたからとか、世間で流行っているから、読むと知識が蓄えられるから、頭がいいと思われるから…など、そういう外側の力に流されて、イヤイヤ読むものではないのだ。

 大切なのは、「自分がどう読むか」。

 著者はあくまで主体を読者である「君」に置いており、その「君」を陰から支え、導くように「読書のすすめ」を語ってくれている。この出しゃばり過ぎない温かさが、本書の一番の魅力ではないだろうか。

 と、ここまでフワッとした読後感をご紹介してきたが、本書ではしっかりと具体的かつ、読者が腑に落ちるような「小説の魅力」について書かれているのでご安心を。

 ちなみに私は元々小説が好きで、平均以上に読書をしている人間だと思うのだが、「なぜ好んで小説を読むのか」というテーマを、深く考えたことはなかった。本書で出会った言葉は、自分でさえも気づいていなかったその答えを、私に教えてくれた。

「人生が増える」。――まさしく私は、これが一番の魅力として、小説を読んでいる気がする。

 当たり前のことだが、人生は一度きりだ。私が今更パリコレモデルにはなれないし、AKBにも入れないし、政治家や弁護士、医者になることもない。けれど、小説を読めば、「自分の人生を生きながら、同時に、全く別の人生を送ること」ができる。

 さらに小説の中では、過去にも未来にもいける。自分が猫になっても未確認生物になってもいい。多くの経験を自由にできる。「どんな小説も、読む君に別の人生を与えている」のだ。

 映画、ゲーム…他のどの媒体より、小説を読む方が「別の人生を経験している感覚」が強いのではないかと、著者は語る。私もそう思う。小説ほど、「追体験している感」が強いメディアもないのではないだろうか。それは小説の特性によるものなのだが…その詳細は本書をお読み頂きたい。

 他にも、小説を読む経験が与えてくれることは、たくさんある。「現実を見直す」「多様性を知る」「陶酔できる」などなど、本書ではさまざまな視点から小説のよさが語られている。「とっかかりが欲しい人のための小説案内」のコーナーもあるので、「何を読めばいいのか分からない」という方にも優しい内容だ。

 小説ってやっぱりおもしろいし、自分にとっては必要なものだし、きっとずっと読み続けていくんだろうなぁと、改めて実感させてくれた。…よし! 何か新しい小説を買いに行こう。

文=雨野裾