PayPay、Suica、クレカ…「支払い方改革」に乗り遅れてない? キャッシュレス化のメリットは…

ビジネス

2018/11/7

『キャッシュフリー経済 日本活性化のFinTech戦略』(淵田康之/日本経済新聞出版社)

「日本は現金大国である」という事実をどれくらい実感しているだろうか。残念ながら、「現金大国」とは、現金がいっぱいあって裕福だということを意味するわけではない。『キャッシュフリー経済 日本活性化のFinTech戦略』(淵田康之/日本経済新聞出版社)という書籍では、日本はキャッシュフリー(現金を使わない電子決済)化に関して後進的で、いまだに現金に依存しているという状況が明かされている。

 本書(2017年6月発売)によると近隣の国と比較して、日本のキャッシュフリー決済比率は19%であるのに対し、韓国は54%、中国は55%と推計する調査もあるという。その他の諸外国と比較しても日本の現金依存度は突出して高く、訪日観光客からは、両替やクレジットカードの利用に関して旅行中に困ったという声も多く寄せられているのだという。

■人手不足問題の解決策となる? 「支払い方改革」

 働き方の多様化という変化に加え、日本では人手不足の問題が年々深刻になっている。大手コンビニエンスストア5社は、2025年までに1000億個にのぼるすべての商品にICタグを貼りつけ、カゴに入れたまま商品情報を一括で読み取ることができるセルフレジを国内全店舗に導入するという計画を打ち出している。店員の少ないコンビニのレジに列ができる光景は、都市部では日常茶飯事となっており、「支払い方改革」の必要は確かに感じさせられる。

 米国でアマゾン社が展開しようとしている新店舗は、スマホをゲートにかざして入店した後、棚から欲しい商品を選んで自分のバッグに入れ、そのまま店を出ればよいという画期的なシステムだ。代金はアマゾンのアカウントを通じて自動的に決済される。

 人手不足対策として、人工知能やロボットの活用など、今後のイノベーションに期待がかかる部分も多いが、カードや電子マネーなど、既存の仕組みを普及させていく余地も大いにあるのだと本書は指摘する。

■キャッシュフリー化のメリットと現金のデメリット

 キャッシュフリー化を進めるメリットは、人手不足を補うこと以外にも数多く存在する。大量の現金を維持するということは、かなりのコストがかかる。紙幣・硬貨の製造、運送、保管、セキュリティ管理の費用はもちろんのこと、個人においても、ATMの手数料などは大きな負担だ。また、盗難や火災による紛失のリスクや、汚損による作り直しのコストも相当なものだとされている。

 また、それ以外にも現金による「目に見えない損失」は大きい。例えば、地下経済で発生して今までは税のカウントから漏れていた収益なども、暗号通貨ならば取り立てが可能となる。これは一見すると消費者不利に感じるかもしれないが、ルールに則り納税する善良な納税者にとっては、フェアな結果になると言えるだろう。同様に、犯罪組織やテロ集団に流れる資金も、暗号通貨ならば堰止めることが可能だという。

 だが一方で、キャッシュフリー化に対する懸念の声も当然上がっている。代表的なのは、電子情報化されたマネーによって個人の収入源や支出先といったプライバシーが侵害され、いわゆる管理社会になるのではないかという不安だ。キャッシュフリー化のメリットを最大限に活かして社会生活の質を向上させるためには、大胆な転換と細心の注意とが同時に必要となりそうだ。

■既存の金融業界の秩序を破壊する“FinTech”とは?

 近年耳にする機会が急増した“FinTech(フィンテック)”という言葉は、本書の中にもたびたび登場する。「そもそも“FinTech”とは何か?」と疑問を感じる読者のために本書は詳しく解説しているので、その内容を簡単にご紹介したい。

“FinTech”とは、ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)とを合成した造語で、単純に訳すと「金融テクノロジー」となるが、この言葉が意味するところは従来の「各種のテクノロジーを金融分野に応用する」という意味での概念とは少し違う。

重要な違いとして注目すべきは、従来の金融テクノロジーという用語は、主として既存の金融機関が活用するテクノロジーを意味することが多かったのに対し、FinTechはテクノロジーを活用して既存の金融業界の秩序に対峙し、これを破壊(ディスラプト:Disrupt)しかねない存在(ディスラプター:Disruptor)として位置付けられているという点である。(本書31頁)

 例えば、ライドシェア(自動車相乗り)サービスのUberや、民泊サービスのAirbnbなどのように、既存の商品・サービスの存在意義を大きく揺るがすような「破壊的」イノベーションが、金融分野でも活発になってくる見通しだ。

「現金がなくなる」といわれても、まだまだ実感は乏しいように感じるかもしれない。だが直近の10年を振り返ってみても、スマートフォンの普及のように、条件がそろえば技術やサービスの浸透はあっという間だ。これから来る転換期にも焦ることなく自分自身の価値判断を下していくために、また自分の財産や生活を守るためにも、キャッシュフリー化に関して早急に学んでおきたい。

文=K(稲)