「芸術は爆発だ!」は綿密に計算されていた!? ビジネスですぐに役立つアートの役割

ビジネス

公開日:2018/11/14

『ビジネスの限界はアートで超えろ!』(増村岳史/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 アート(美術)の世界は、これまで一部の愛好家向けのものと思われていた。ところが近年、一般向けの西洋美術史関連の書籍が次々と刊行され、『西洋美術史』(木村泰司/ダイヤモンド社)をはじめ、その多くが売れ行き好調だ。また、ビジネスパーソン向けの美術講座もあちこちで開かれており、どれも人気を呼んでいる。ANA(全日空)では、2017年から社員向けの西洋美術史セミナーを開講しているが、毎回、定員を大幅に超える受講希望者が集まるという。

 なぜいまビジネスパーソンにアートが人気なのか? その理由のひとつに、「グローバル化」が挙げられる。欧米のビジネスパーソンにとっては美術の知識は必須の基礎教養であり、話のきっかけとなるアイスブレイクの際にもアートの話題が出ることが多い。そんなとき、「絵の話はよくわかりません」と他人事でいては、仕事にも差しさわりがあるのだ。

 そして、もうひとつの理由は、アートがビシネスそのものに与えるプラスの効果である。それも、ただ鑑賞するのではなく、絵を描くなど自分で「アートを創造する」ことがビジネスに新しい発想や展開を与えてくれるとされている。本稿で紹介する『ビジネスの限界はアートで超えろ!』(増村岳史/ディスカヴァー・トゥエンティワン)の眼目もそこにある。

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■「アート」がビジネスの可能性を引き出すワケ

 絵を描くことがビジネスにプラスになる理由を、本書では次のように説明している。 絵を描くことには、感性をつかさどる右脳と、論理をつかさどる左脳を統合した、調和のとれた能力が必要とされる  アートというと、右脳の働きだけで創るものと思われがちだが、構図を考えたり、配色のバランスを考えたりするのは、論理をつかさどる左脳である。本書でも例として出てくるが、「芸術は爆発だ!」という名言を残し、感性のおもむくままに作品を創っていたイメージの強い岡本太郎も、実際には綿密な下絵を描いてから作品に取りかかっていたそうだ。

 これまでは、左脳的な論理力だけでもビジネスをうまくこなせたかもしれない。しかし現在、ビジネスの現場でとくに求められているのは0を1にするような、まったく新しい発想だ。あるいは、実用性を超えた“楽しさ”や“ストーリー”である。そんな要素を生み出すときに必要なのは、右脳的な感性だろう。

 もちろんビジネスなのだから、左脳的なロジカルシンキング(論理思考)もなくてはいけない。だからこそ、絵を描くことで右脳と左脳をバランスよく使うアートシンキング(アート思考)を身につける必要があるのだ。

■「美術のスキル」は今からでも磨くことができる!

 とはいえ、突然「絵を描いてみよう」と言われても、「そんな才能ないし…」と尻込みする人も多いだろう。だが本書によれば、運動神経、数学力、記憶力、美術のスキルのうち、もっとも遺伝的要素が強いのは数学力で、後天的な要素が強いのは記憶力と美術のスキルだという。つまり、アートの才能に関しては後からどうとでもなるのだ。

 仕事に行き詰ったら、とりあえず近所の絵画教室に通ってみるというのも、悪い休日の過ごし方ではないだろう。

文=奈落一騎/バーネット