公務員の「安定」「安泰」は過去の話? 10年後に生き残れる公務員とは

社会

公開日:2019/1/10

『10年で激変する!「公務員の未来」予想図』(小紫雅史/学陽書房)

 長年、大学生の就職したい企業・業種ランキングの上位にランクインし続けている、国家公務員と地方公務員。公務員という職種の魅力の1つは、利益を追求しないため民間企業が参入しにくい部分の仕事を担えることだ。実際、そうした一面に魅力を感じて志望する学生も多い。

 一方で「身分が安定しているから」「福利厚生がしっかりしているから」という理由で選ぶ学生も少なくないという。公務員は「安定している」と考える人に読んでもらいたいのは『10年で激変する!「公務員の未来」予想図』(小紫雅史/学陽書房)だ。

 本書のメッセージは「公務員の終身雇用は必ず崩壊する」というもの。2015年に野村総合研究所が発表した、10~20年後に日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替できるというリリースも記憶に新しい。その中には国や地方自治体の行政職員も含まれている。

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 公務員の終身雇用がなくなる理由は3つ。1つは、財政的な問題である。今のところ行政の仕事はシステム化されていない部分が多いため、職員が担っている仕事が多くある。ところが、今後、日本の人口は減少していく。生産性が現在と同じであると仮定すると、税収の減少は避けられない。これまでと同じように公務員を雇う体力は国にも自治体にもなくなっていくと考えられる。

 2つ目は、人口減少に伴ってAIやITの導入が加速していくことだ。仕事の方法が変わることで、正規職員がやるべき業務も大きく変わる。AIやITだけでなくシェアリングエコノミーの活用も求められるようになり、正規職員を配置すべき仕事とそうでない仕事の分配がシビアになっていくだろう。

 3つ目は、近い将来やって来る社会の急激な変化に対応するにはプロジェクトごとに専門性の高い人材が必要になっていくことである。新卒採用の職員を数十年にわたって長期に雇用するのではなく、一定の期間で一定数を入れ替える流動的で弾力的な組織運営が求められるようになるだろう。

 今後は公務員とはいえ、終身雇用や年功序列の崩壊から免れることはできなくなる。国も自治体も、これまで誰も経験したことのないような変化の激しい時代に対応していかなければならなくなるからだ。身分の安定や、福利厚生を理由に公務員を志望するような人は変化に対応できないだろうから、そもそも公務員になることすらできない、と著者はいう。

 変化の波は、すでに公務員になっている人にもやって来る。興味深いのは「公務員は、制度的に安定した地位を保障されているからこそ、それを土台に新しい挑戦せよ」という逆説的な提案だ。やがて公務員の副業が当たり前になり専業公務員は少数派になっていくだろう。そのような中では、公務員を辞めても食べていけるだけの専門性やリーダーシップを身に着けている人だけが生き抜いていけるようになるのかもしれない。

 変化を求められるのは、組織も同様だ。これまでの日本には、新卒で採用した職員を教育し、一人前になるまで育てるという発想があった。そのため、一定の期間を経て育った人材が転職してしまうことに対して否定的な組織が大半だった。しかし、将来、終身雇用を約束できなくなるなら、国や自治体、企業には、採用した人が辞めても生活していけるように成長や挑戦の機会を提供する責任が生まれてくるだろう。従来の考え方からすればとんでもない考えかもしれないが「他の世界でも活躍できる人材を育てられる組織には優秀な人材がどんどんやってくる」ため、そのような心配はいらないという。

 著者は、元環境省職員、現在奈良県生駒市長。本書には主に地方自治体の職員として働くことの魅力や、公務員として生き残るための心得について書かれている。公務員志望の学生、現在公務員の人には必読の書といえる。これからは公務員と民間企業の仕事の垣根はなくなっていくだろうと感じられる一冊だ。

文=いづつえり