『ごめん、買っちゃった』―マンガ家・吉田戦車が綴る物欲とうまく付き合う方法

エンタメ

2018/12/25

『ごめん買っちゃった~マンガ家の物欲』(吉田戦車/光文社)

 読者諸氏は、自身の物欲を制御できているだろうか。普通に考えれば、収納場所や予算の都合で否応なく抑制されるはずだ。小生とて無駄遣いせぬよう、心掛けている──はずなのだが、カプセルベンダー、いわゆる「ガチャガチャ」や、玩具付き菓子「食玩」のフィギュアがジワジワとPCデスクの周りを侵食し続けている。懐具合にも設置場所にも余裕があるわけでもないのに、それでも増えるのは何故……。

 そんな折に見つけた、とても親近感がわく一冊がこの『ごめん買っちゃった~マンガ家の物欲』(吉田戦車/光文社)である。本書はマンガ家である吉田戦車氏が、自らの物欲を自身のイラストとともに振り返るエッセイ集だ。しかし、その対象がなんとも脈絡がない。玩具や鉄道の切符などならコレクターも多く納得──本当に世間一般の人々は納得しているのか?──なのだが、他にも納豆やラーメン5袋パック、メッセンジャーバッグに長財布、果ては血圧計と来ている。まるで、物欲の未知の領域を開拓し続けているようだ。

 冒頭に取り上げられるのは「ウルトラマンオーブの食玩」。2016年に放映されたテレビシリーズで、歴代ウルトラマンの力を宿したカードを使い、複数の形態に変身するのが特徴だ。その中でも「サンダーブレスター形態」が吉田氏のお気に入りで、悪のウルトラマンであるベリアルとウルトラ兄弟のゾフィーの力を宿した、チョイ悪な見た目と荒々しい戦いっぷりが好きだという。

 当然の如く、仕事部屋の机に飾るのだが、やがて飽きると押し入れに収納。今までにもウルトラマンフィギュアは買い続けており、それらが蓄積されているのだ。その光景を氏自身は、作中に登場する敗れ去った怪獣たちの魂が流れ着く場所「怪獣墓場」とたとえているのだが、実はその押し入れこそが物欲の象徴なのではないだろうか。物欲に魅入られた「物欲者」は飾らなくとも遊ばなくとも、所有することこそが喜びなのだ。小生も仕舞い込んだまま捨てる気は全くないコレクションがあるからよくわかる。

 フィギュアの類は小生も実に納得するが、吉田氏の物欲は意外なものへと向けられる。特に印象的なのが納豆だ。しかも決して高級品ではない、イオングループで売られている40g×3パック48円のタレとカラシ無しの品である。氏はもともと食材宅配で紙と経木でパッケージされ、タレとカラシはついていない昔ながらの品を常食している。それを食べきったら、スーパーへ普通の納豆を買いに行くのだが、カラシは使うもののタレは捨てる。味付けはいつも通り自身でしたいからだ。「物欲者」の拘りは深い。

 だが、やはり捨てるなら初めから入っていない方が良いと思い、スーパーで買う場合でも、タレとカラシの入っていない品を探していたそう。ただ、吉田氏の一人娘に言わせれば、たまにタレを使うと「何これ、おいしい!」と喜んでしまう。甘くて納豆臭がやわらぐというのだ。思いがけず訪れた敗北感にとらわれつつも娘のために旨い国産納豆を探すようになったとか。とはいえ、広範囲に物欲を発揮する氏だけに、それは決して敗北ではなく、対象が広がっただけのことだろう。欲しいものが増えるのも「物欲者」の喜びだ。

 吉田氏自身はあとがきでこう述べている。

【「もの」が好きなのではなくて、「あるものに興味をひかれ、欲しくてたまらなくなって、店を何件も探し回る」プロセスが好きなのだ、と思う】

 なるほど、これもわかる気がする。勿論、買ったものに対する愛着はあるだろうが、買うまでのプロセスというのも、物欲には必然だ。読者諸氏も欲しいものがあれば、どう手に入れるかを試行錯誤するだろう。物欲を満たす行為は「欲しいと思う心」「選び抜く技」「店まで足を運ぶ体力」、まさに心技体が揃って成り立つのではないだろうか──と思うが、小生は自身の物欲を正当化したいだけかもしれない……

文=犬山しんのすけ