“幸せ”ってなんですか? 読めば明日への希望がみえる『明日、世界が消える前に』

文芸・カルチャー

2019/1/26

※「ライトに文芸はじめませんか? 2019年 レビューキャンペーン」対象作品

『明日、世界が消える前に』(霜月りつ/ポプラ社)

「ねえ、タイチ。あんた幸せってわかる?」
「シアワセ?」(中略)
「そうよ、あんた、今、幸せ? 幸せなら幸せだと言ってね。あたし、あんたにそう言ってもらわなきゃいけないのよ」
「わかんない、シアワセってなに?」

 幸せになりたい、と人は言う。だが、その“幸せ”とは、具体的にはなんなのか。『明日、世界が消える前に』(霜月りつ/ポプラ社)の登場人物は、回答に困るそんな問いを、待ったなしの状況で突きつけられることになる。

 朱音は、入社式を控えた新社会人だ。苦労の末に内定を勝ち取り、父と同じ食品関係の会社に就職することになっている。父は、朱音が生まれる前、交通事故で亡くなった。父のぶんまで自分を大切に育ててくれた母親に、これからは楽をさせてあげたい。意気揚々と入社式に向かう朱音だが、その道中、歩道橋の階段で足を滑らせてしまった!

 転倒したはずの朱音が目を開けると、そこは白いもやに包まれた奇妙な空間。朱音の前に現れたのは、スーツを着込んだ2人の男だ。“死整庁(しせいちょう)”の職員だという彼らによると、朱音がいるのは「生と死の狭間の世界」。朱音の死は、まだ決まったわけではない。よみがえるためには、試練を乗り越えなければならないという。つまり、決められた時間内に、指定されたターゲットを幸せにできれば、朱音は生き続けられるのだ。

 朱音の胸には、母や、就職を我が子のように喜んでくれた近所の人たちの顔が浮かぶ。みんなが応援してくれているのに、よりによって入社式当日に死ぬなんて。自分は、まだ死ぬわけにはいかない。「どんなテストだって受けて立つわ!」と試練に挑むことにした朱音だが、元いた世界に戻り、死整庁のアイテムである指輪が教えてくれたターゲットは、ほんの小さな男の子。制限時間の4時間以内に、「シアワセってなに?」と尋ねる少年タイチを幸せにしなければ、朱音はこのまま死んでしまう。なんとかタイチを“幸せ”にしようと、朱音は奔走するのだが……。

 本作では、朱音のほかにも、4人の登場人物が「生と死の狭間」に招かれる。失恋の傷が癒えないOL、言いたいことを内側に秘めた女子高生、重病で生きる希望をなくした女の子、動物としか話せない元引きこもり。彼女たちは、生きるために、あるいは死ぬために──彼女たちの望む“生”のために、ターゲットの“幸せ”を探して、必死に頭と力を絞る。

 思えば、それを読むわたしたちも、状況は彼女たちと変わらない。明日事故に遭うかもしれないし、5分後になんらかの発作を起こすかもしれないのだ。生きものは死を避けられず、その時期はわからない。そんなわたしたちに、本作はひとつ、確実なものを教えてくれる。“生”とは、誰かとともにあることだ。そして、その誰かを幸せにすることは、すなわち自分の“生”を幸福なものにすることであり、そのきっかけになるのは、自分の起こしたアクションかもしれない。自分の“生”は、自身の手で変えていけるのだ。

「神様の子守はじめました。」シリーズ(コスミック出版)の著者が贈る、明日への希望のストーリー。読めばきっと、未来が明るく見えてくる。

文=三田ゆき

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