自分は価値のない人間? 偏差値30の僕がうんこを通じて「自己肯定感」について考えた

暮らし

2019/2/3

『19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと』(石井洋介/PHP研究所)

「子供のころ大きな病気をしてお医者さんに助けてもらったから、私も医師になろうと思ったんです」テレビドラマなどでたまに出てくるセリフだが、実際、医者になる人はどんなきっかけでそうなったのだろう。

『19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと』(石井洋介/PHP研究所)は、タイトルのとおり、19歳で病気のため大腸を全摘出し、人工肛門になってしまった著者が、当時は珍しかった人工肛門を閉じる手術(小腸を使って便をためる機能を持たせる)を受けたことをきっかけに「僕も、あんなカッコいい医師になりたい! そうして人をたくさん救いたい!」と医師を目指すところから始まるノンフィクションだ。

■難病を越えて自己実現を果たした、著者を動かしたものとは?

 医師になりたい。しかし、当時の著者は、重い病気のためろくに高校にも通っておらず偏差値は30台。それでもそこからスタートし数年がかりで高知大学の医学部に入学。研修医時代には、ひとりで自主的に研修医集めのプロモーションを始めたところ、これがまわりに認められ、高知の研修医不足解決への一端を担う。晴れて消化器外科医になり、自分を救ってくれた憧れの横浜市立市民病院に勤務するも3年で退職し、厚生労働省の職員に。その後は在宅診療医、経営コンサルタント、開業医、クリエイターとさまざまなことに取り組みつつ今に至っている。

 とにかく、大学入学以降の著者の行動力とコミュ力がすごい。合格後にキャンパスに出向くも最初は誰にも声がかけられず、本屋で「話しかける技術」のような本を数冊買ったというエピソードがウソのようだ。

 体験談や活動内容から著者の人当たりの良さや広範囲な物事の見方、探求心が強く努力家である点などが伝わってくる。これほどキャリアが移り変わるのは、それだけの誘いの声があったからで、著者自身の人徳があってのことだろう。

■自分自身でいるための「自己肯定感」って何だろう?

 それにしても、なぜこんなにもがんばれるのか。もちろん医師としての責任感やモチベーションが著者を動かしていることは確かだが、本書の最終章「うんこみたいな自分から自己肯定感を高めて幸せになる」で、その核心に触れることとなる。

 高校入学早々に難病にかかり長期入院、そして両親の離婚という事情もあり、学校にも家にも居場所がなかった若かりし頃の著者は、自分は価値のない人間だと思っていたという。だから、行動に自信を持ちたいと願い、そのための経験を重ねたいと思った。そうやって成功体験を積み上げていくことが、自己肯定感を上げる方法だと思っていたのだ。

人の役にたっている、誰かに貢献できている、ということが、自分を肯定できる最大の材料になっていたと思います。

 だが、それは自己肯定感ではなく「自己効力感」であったことに気づく。本来の自己肯定感とは「今日も生きていて幸せ」だと感じられる力で、それには「自分はただ生きているだけでいい、人はみんな存在そのものに価値があるのだ」と思えることだ。

 それに気づかせてくれたのが、著者のまわりの友人たちだった。彼らは「石井さんがただここにいるだけで僕らはうれしい」と言ってくれたのだ。

社会的な成功を得ることには、誰しも憧れがありますが、それで自分の幸せにつながるのかとよく突き詰めて考えると、そうではない。人は、誰かに自分の存在自体を肯定され、「そのままの君が好き」と言われることが、一番の幸せなのだと思えたのです。

 あとがきにあるように、本書は自己肯定感が持てなくて苦しんでいる人に向けてエールを送り、自己肯定感の高め方のポイントを伝えることがひとつの目的になっている。そしてこれは、若かりし頃の「うんこみたいだと思っていた著者自身」に向けて書かれているようにも見える。

 周囲の期待に応えようと弱音を吐けなかったり、他人には常に笑顔でしか応えられなかったりする人は多いだろうが、それがつらいと感じるなら、自己肯定感が関係しているかもしれない。タイトルだけだと大胆な人生で自分とはかけ離れていると思うかもしれないが、多くの人に共感する観点の多い1冊である。

 本書では、医学部受験勉強のやり方から医師としての問題意識、さらにキャリアの重ね方なども紹介されており、それらを経験した先輩の語るヒントに興味のある方にも大いに参考になるだろう。

文=高橋輝実