報道のイメージ通りだった殺人犯は一人もいない『平成監獄面会記』「犯人本人に会わないとわからないことが必ずある」

社会

2019/2/8

『平成監獄面会記』(片岡健/笠倉出版社)

 世間を騒がせた犯罪者が刑務所で執筆した「獄中記」は、どこか複雑な気分(読むことで犯罪者を利するんじゃないか、自分に都合のいい主張なんじゃないか…etc.)もついてまわり、「読むか、読まないか」と意見がわかれることもある。とはいえ凶悪犯が獄中で何を考えているのか、ほんとのところは興味があるという人もいるはず…そんな人は『平成監獄面会記』(片岡 健/笠倉出版社)を読んでみるといい。

 8人の殺人犯(ほぼ死刑囚)と面会してその心のうちを聞いたという本書は、著者という第三者の目線がある分、彼らの実情をさほど抵抗なく受け取ることができるかもしれない。

 著者は事件関係の取材や執筆をしているフリーのライターであり、仕事の一環として刑務所や拘置所でさまざまな殺人犯と面会をしてきた人物。これまでに39人もの殺人犯に会ったというが、その中でも個性が際立っていた8人についてまとめたのが本書であり、相模原知的障害者施設殺傷事件(平成28年)の植松聖や関西連続青酸殺人事件の筧千佐子など、その冷酷さや凶悪さを連日マスコミが取り上げていた人物たちが多く登場する。

 著者は前書きで「犯人本人に聞いた話をそのまま伝えるような記事を発表すれば、犯人の身勝手な言い分を垂れ流したとして批判される」ことを認めた上で、それでも「犯人本人に会えるなら、できるだけ会いたいと思っている。(中略)犯人本人に会ってみないとわからないことが必ずあるからである」と述べる。

 実際、会ってみると報道のイメージ通りだった者は一人もおらず、普通の人より弱々しい人物だったり、傍聴席と面会室ではまるで印象が違ったりするのはよくあり、真偽のほどは別にして裁判記録と食い違う「犯人の言い分」を知ることもあるという。だからこそ、著者は殺人犯たちの「実像」を知るために本人たちに会うことにこだわるのだ。

 たしかに紹介されている殺人犯たちの「実像」には意外な面がある。たとえば平成20年におきた元厚生事務次官宅連続襲撃事件の犯人・小泉毅の場合は、「子どもの頃に飼っていた愛犬が間違って保健所で殺されたことに対する仇討ち」を犯行動機と自供したが、当時マスコミではその理由は常軌を逸していると「クレージーな殺人犯」として精神障害や妄想性障害を疑い、裁判でもそう主張された。だが、面会や手紙のやりとりを通じて著者が知ったのは、「仇討ちは本心であるのに信じてもらえない」という小泉の強い憤り。殺処分を糾弾する小泉自作の上告趣意書(本書に画像あり)は、強く不穏な手書き文字に鬼気迫るものがあり、その「本気度」がうかがわれる。実はこうした小泉の思いに感応し、動物愛護家たちの間に支援の輪が広がっているというのも衝撃だ。

 著者との会話や手紙の実物などから見えてくる8人を、果たしてあなた自身はどう感じるか。「悪人はいなかった」と著者は言うが、誰もがなんとも言えないいびつさを抱えているのは確かであり、どう理解すればよいのか混乱するかもしれない。なお、「殺人犯と面会するにはどうすればいいのか?」「取り壊される殺人犯たちの家」など一般的な好奇心に応えてくれる挿入コラムが、複雑な思いを少し和らげてくれるのがありがたい。

文=荒井理恵