母を殺された仇討ちに盗賊たちを皆殺しにするグロテスクな絵画が凄い…日本美術、奇想の系譜

文芸・カルチャー

2019/2/13

『新版 奇想の系譜』(辻 惟雄/小学館)

 葛飾北斎や歌川国芳など、日本美術を題材にした展覧会が全国各地で開かれ、人気となっている。現在、東京都美術館にて開催中の展覧会「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」もまた、江戸絵画に詳しい人だけでなく、近年のブームでその魅力にハマった人や、まだ知識がないという人でも充分に楽しめる内容だ。

 この展覧会は、1970年に刊行された美術史家・辻惟雄氏による書籍『奇想の系譜』に基づいた展示。本稿で紹介する『新版 奇想の系譜』(辻 惟雄/小学館)は、同書籍のオールカラー版だ。狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、歌川国芳など、絵師たちの前衛的な着眼点が光る江戸絵画を約130点掲載している。絵師たちの生い立ちや人柄、代表的な作品の解説などの記述も豊富なので、まずはカラー図版に目を通して、気になったものはテキスト解説を読むのもよいだろう。

 私が感銘を受けた作品を挙げるとキリがない。そこで以下では、展覧会と本書の両方を見ながら、特に惹かれた作品を3点ご紹介したい。

■岩佐又兵衛「山中常盤物語絵巻」第4巻

 全12巻からなる極彩色絵巻。全巻を合わせるとその長さは約150mに及ぶ。物語は、6人の盗賊に母親とその侍従を殺された牛若(源氏の御曹司・牛若丸)が、盗賊たちに復讐をするというちょっと血生臭いもの。第4巻では、牛若の母親と侍従が盗賊に着衣をはぎ取られ、刀で刺し殺される場面が生々しく描かれている。盗賊たちの少々間抜けな表情や惨殺シーンのあっけなさは、コミカルに思える分、余計に残酷だ。

 本書には牛若が件の盗賊たちを皆殺し(!)にする第10巻の図版も掲載されており、こちらではさらにパワーアップしたグロテスクな描写が…。いくら相手が悪者とはいえ、「そこまでやるか」とツッコミたくなる(幸か不幸か、第10巻は展覧会では見られない)。

■伊藤若冲「紫陽花双鶏図」

 雄雌の鶏と、2種類の群青を使いわけて紫陽花が描かれた作品。伊藤若冲といえば、さまざまな動植物を細密に描いた彩色画「動植綵絵」が代表的だが、それよりも前に描かれた「紫陽花双鶏図」でも、力強さと美しさを兼ね備えた鶏の姿が見られる。余談だが、「動植綵絵」は単なる花鳥画ではなく、仏への願いが込められた仏画なのだ、という解釈も興味深い。

■曾我蕭白「唐獅子図」

 著者である辻氏はあとがきの中で、曾我蕭白の「群仙図屏風」との出会いが、本書誕生のきっかけになったと語っている。この作品で描かれているガマ仙人や鬼子母神の不気味さ、どぎつい色づかいなどの特異な作風はインパクト大。この作品は展示後半の3月12日(火)から公開される。

 同画家の水墨画「唐獅子図」は、幅2.5m、高さ2.25mの2枚の引き戸に描かれた作品。雄雌の唐獅子が、荒いタッチの筆づかいで描きなぐられている。本書だけでは作品のサイズ感がなかなか伝わらないのだが、実物は文字どおり見上げるほどデカい。迫力ある筆致の荒々しさは、ぜひ展覧会で体感していただきたい(この「唐獅子図」は展示前半の3月10日(日)まで公開)。

 あらかじめ本書を読んでから展覧会に行くと、作品の見どころや絵師の背景を予習できるので、より理解が深まるだろう。「絵画や歴史には詳しくない…」という人は、先に展覧会を見てみて、その後に読むのがおすすめだ。見覚えある絵に親しみを感じられて、とっつきやすくなるはず。本書も展覧会も、一方に触れればもう一方が気になるという連鎖反応が起きること請け合いだ。

【展覧会情報】

「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」
・開催期間:2019年2月9日(土)~4月7日(日)
・開催会場:東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)
・公式サイト: https://kisou2019.jp/
 休館日、開館時間、展示替えなど詳細は上記サイトからご確認を

文=上原純