「会社員の男性」から見えた育休のリアル―育休・育児から得た気づきとは?

出産・子育て

公開日:2019/2/15

『男コピーライター、育休をとる。』(魚返洋平/大和書房)

 5.14パーセント。これは平成29年度に厚生労働省によって調査された、男性の育児休業取得率だ。電通のコピーライターである著者がウェブ電通報に連載していたコラムを書籍化した『男コピーライター、育休をとる。』(魚返洋平/大和書房)は、働く男性の約5パーセントしかまだしていない育休取得の経験を、「旅」のように綴っている。

 言葉を巧みに操るコピーライターが著者ということで、本書は言葉の定義に関する検証や、比喩表現が随所に織り交ぜられながら展開されていく。育休というのは、育児「休暇」ではなく、育児「休業」の略なのだということ。そして、本書は育児についてではなく、育児休業という「旅」について考える紀行本のようなものであるという視点も冒頭で明らかにしてくれるので、立ち位置をしっかり把握した上で読み進められる。

いつだったか、レジャー系の商品に「人生の7分の2は週末である」というコピーを書いた。でも赤ちゃんにとってはそうじゃなくて、「7分の7が平日」だったのだ。
育児をすることは、その平日の側につくことだ。

 仕事で「ハレ」の場を多く経験してきた著者は、半年間の育休を取得して「ケ」の世界に足を踏み入れ、育児とはつまりルーティーンを繰り返すことであって全く休暇とは呼べないということに著者は気づく。一方で、保育園の見学へ行く際に近隣のパン屋巡りに楽しみを見出す。大手広告会社の業務に比べてしまうと、「たかがパン」と感じてしまいがちなところだが、著者はそこに宿る幸せを敏感にすくい取る。また、持ち前の行動力でママばかりの場にも足を運んだ著者は「父親の育休って存在するんですね」と言われるなどして、コピーライティングにとって大切なインサイト(洞察)を蓄積していく。

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「お金の問題って正直どうなの?」「育休って出世の邪魔をしないの?」といったぶっちゃけ話も、育休中に収入が約70%になったことや、復職後に仕事のアウトプットが3分の1ほどになって抱える案件もだいぶ少なくなった現実とともに本書には書かれている。どのようなお金を使わなくなり、また同時に使うようになったか。若干の寂しさと同時に「育児による制約を承知で、それでも自分と一緒に仕事をしたいと言ってくれる人のありがたさ」「来るべき案件のみが自分のところに来る確率が高くなった」などといった著者の発見が読みどころだ。

 ターゲットを絞って文章を書くコピーライターは、ターゲット「外」にいる人のことも忘れない。つまり、「子どもがいない人」「子どもが好きではない人」のことだ。「隠れ子ども嫌い」と一章を割いて、著者はこのように提唱している。

ときに、子ども嫌いってだけで、イコール悪者であるかのように扱う人もいる。けれど、それはなんというか、世の中をかえって息苦しくする偏見だと思うのです。悪者がいないとは言わないが、それは子ども嫌いに限った話ではない。
それに、子どもという存在のかわいさ・美しさをたとえ共有できなくたって、人と人は一緒に(仲良く)やっていけると思いたい。

 子どものいる人生といない人生。そのどちらも尊重した本書は、著者が育休・育児から得た気づきを以って、人生という「旅」の豊かさを読者に気づかせてくれる。

文=神保慶政