「有名になると失うものが大きい」って本当ですか!? “自分だけのものさし”の見つけ方

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公開日:2019/2/18

『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』(青木真也/KADOKAWA)

 人は有名になることや金持ちになることで、幸せを手にできると考えがちです。しかし、そこには代償として失うものがあるという視点が欠けているように思います。日本を代表する格闘家である青木真也氏は自らの経験から、大切なのは「自分だけのものさし」を持つことだと説く。世の中の価値基準に踊らされるのではなく、自分自身の揺るぎない価値観を持つことが、社会の先行きが不透明ないま、求められています。

 あなたは自分の生き方に満足できていますか? 自分の置かれている状況に納得していますか? 手放しで現状を肯定できる人は少ないのではないでしょうか。

 たとえば、会社に勤めているのなら、「このまま、いまの仕事や生活を続けていていいのかな……」「本当にいまの会社でがんばれば幸せになれるのだろうか?」などと、悩みを抱えている人も多いと思います。

 若いうちは我慢を強いられても、いずれは報われるという確約があれば、悩まずにすむはずです。しかし、1990年代の半ば以降、日本企業の特徴的な雇用制度だった終身雇用制度と年功序列制度が崩壊すると、会社に勤めることで将来の安心を手に入れることが難しくなりました。

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 また、日本では少子高齢化が進んでいますから、国が現役世代に有利な政策を打ち出すことは期待できないでしょう。他人任せではなく、自らが現状を打開しなければ、幸せは得られないのです。

 会社は面倒を見てくれないし、日本という国だって、この先どうなるかわからない。そういう時代だからこそ、本能と生きるべきです。世の中の価値基準とは違う「自分だけのものさし」を大切にしましょう。好きなことをやったほうがいいし、好きに生きたほうがいい。自分に噓をついても、得られるものは昔ほど多くありません。

 僕の結論からお伝えさせていただくと、「本能に忠実に、空気を読まずに生きているやつのほうが強い」のです。僕自身、1度は将来をあきらめて、大学卒業後に警察官となりましたが、「本能と共に生きる」ことを何よりも最優先して再び格闘家を志した結果、3団体で世界王者になることができました。本能は行動と成果を最大化するもっとも強力な源泉になりえるのです。

日常とトレードしてまで有名にはなりたくない

 どんどん有名になって「国民的ヒーロー」になっていくと、言いたいことが言えなくなります。するとメンタルは壊れていくでしょう。結局、自分じゃなくなってしまう。それが怖いわけです。

 僕は、あくまでも、ライブハウス的というか、カウンターカルチャー的でいいし、現場感があるほうがいい。それが僕の幸せです。

 僕自身、格闘技団体を自分で立ち上げたいとか、会社を経営したいとか、そういうことはまったく考えていません。結局、僕は本能に従い、格闘家として自分の名前で仕事をして生きていくことに価値を感じているだけなのです。それに必要なことはしますが、それ以上は考えていません。僕に「大義」はないし、大金持ちになろうとも思っていません。「このくらいでいいかな」というラインが自分のなかにあるのです。

 僕は有名になりたいとも思いません。有名になることで失うものが大きいと感じるからです。気軽に外を歩けなくなるとか、自由な時間がなくなるとか、いまのようにのびのびと生きることはできないでしょう。かけがえのない日常と「トレード」してまで有名になりたくはないのです。

人気を取るよりも自分の表現をし続けたほうが幸せ

 僕がワールドクラスの有名人になったら、外で「ばかやろう、ウンコ食ってろ」とか言えないでしょう(笑)。格闘技で言うと、キャラの問題もありますが、井上尚弥も言えないはずです。それだけで大ニュースになってしまう。でも、僕は好き勝手に発言したい。

 井上尚弥になると、しっかりしたコメントを求められて、それをどこか演じなきゃいけなくなる。僕がそうなると、自分のやりたい表現ではなくなってしまうと思うのです。地上波のテレビにバンバン出てしまったら、やりたいことができなくなってしまう。何よりも、自分の人生を懸けて表現したいことを最優先にしたい。だから、名前が知れるのはある程度でいいと割り切っています。

 ツイッターやインスタグラム、youtubeが普及したことで、会社などの組織の一員であることに満足できず、「とにかく有名になりたい」と思っている人もいるでしょうが、それによって失うものを冷静に考えてみるのも大事なこと。また、同時に、「自分はどれくらい有名になるのか」まで考える必要があります。明確な数値目標を設定しないと、ゴールが見えず、つらい状態がずっと続きます。

 僕は過去にテレビの地上波に出るときに、優等生的なコメントを求められることが多くありました。それが結構つらかったのが本音です。「このやろう」と思っていても、「そういうのは、やめてください」と言われてしまう。やはり、好きなことを言えて、好きに揉められるほうが、生きていておもしろいことに気づきました。

「絆」とか「仲間」とか「誇り」とか、そういう種類の言葉を使うと、人気を得ることはできるでしょう。格闘家として、「がんばれよ」と思ってもらえます。ただ僕は、そこに違和感があったし、そうした安易な考えには、どうしても賛同できなかったのです。

「どうせ、これを言えば人気も上がるんでしょ」という既定のレールが見えたので、あえて「それを言ったら負け」だと思っていました。完全にあまのじゃくです。本心で思っていないことでも、聞こえのいい言葉を発言すればファンの人々は増えていく。でも、「それで本当にいいのか? 青木よ」という本能の声が拭いきれなかったのです。嘘をついてまでファンの人を獲得したくなかった。

 本心を捨てて、人気を取るか。自分の表現をし続けるか。迷ったときに、僕は後者を選んだのです。自分の思ったことを思ったようにやる。結果的にそのほうが、自分にとっても幸せなのです。

「自分が欲しいもの」と「失うもの」とのバランスをわきまえていないといけません。高い金額をもらう代わりにメンタルをやられてしまうのは、トレードのミスです。僕は「ある程度あればいい」「これだけあればいい」と思ってやっています。そのラインを超えたらラッキー、みたいな感覚です。

 繰り返しますが、先行きが不透明ないまの時代は、本能と共に生きるべきです。あなたの本能は何を求めていますか? 答えが出れば、僕と同じように、有名になることやお金持ちになることで幸せに得られるという幻想から逃れることができるはずです。

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著者紹介
青木 真也(あおき しんや)

1983年5月9日生まれ。静岡県出身。小学生の頃から柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に柔道から総合格闘技に転身。「修斗」ミドル級世界王座を獲得。大学卒業後に安定を求め静岡県警に就職するも、本能に従い2カ月で退職を決め、再び総合格闘家の道へ。そして「DREAM」「ONE FC」で世界ライト級チャンピオンに輝く。著書に『空気を読んではいけない』(幻冬舎)がある。
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