『フルーツバスケット』透はどうして“彼”を選んだ? 少女マンガの「本命と当て馬」論

マンガ・アニメ

2019/3/10

『フルーツバスケット』(高屋奈月/白泉社)

 この春、再びアニメ化することになった、高屋奈月原作の漫画『フルーツバスケット』(白泉社)。両親を亡くし、アルバイトをしながら自活する逞しい女子高生、本田透と、十二支の物の怪に憑かれた草摩家の人々との心のふれあいを描いた物語で、累計発行部数はなんと、3000万部。少女漫画史に残る大ヒット作です。

 笑いあり、涙ありのストーリーの結末は、誰もが認める大団円。見事なフィナーレでした。

 その一方で、ファンの間ではいまだに議論されるテーマがあります。

 それは、「なぜヒロインの透は、由希ではなく夾を選んだのか」というものです。連載序盤、由希と夾は、透をめぐるライバルとしてかなり拮抗していたように見えました。ところが、物語中盤当たりで突如、透は夾に対して恋心を抱くのです。唐突とも思えるこの展開は、三角関係の行方を追っていた読者を大いに驚かせました。

 一体いつから、夾が本命だったのか。由希は当て馬だったのか? 漫画評論家の紙屋高雪さんに、少女漫画における【本命・当て馬】の特徴について伺いました。

●少女漫画における「本命」と「当て馬」キャラの仮説

「最終的にヒロインと結ばれる本命キャラと、ヒロインたちの恋を燃え上がらせる要素である当て馬キャラ。この2つに特徴や法則があるか……ということですが、これは非常に難しいテーマです。統計的事実もありません。ですが、あえて仮説を立てるとするならば、黒髪か白髪かで語ることができます。かなり強引ですけど(笑)」

 紙屋さんが立てた仮説は、「本命=黒髪、当て馬=白髪」というもの。

「70年代終わりから80年代にかけての日本は、管理教育による校則全盛の時代です。日本人の若い男性の髪は『黒髪』であることが『正統』であり、それを染めることは、反抗・逸脱の表現でもありました。少女漫画の本命キャラを、王道・正統と言い換えるとするならば、黒髪がそれに当てはまると思います」

 もちろん、異なる漫画は無数にありますが、それらは「黒髪=本命」という原則のヴァリエーションに過ぎないと言います。

 また、本命と当て馬のわかりやすい特徴として、もう一つ、本命は「人気者であってはならない」というものがあると紙屋さん。

「まず、少女漫画のヒロインは、物語を成立させるため、“人として成長しなければならない”という運命を背負っています。ところが、恋のお相手が、イケメン・学校一の人気者・非の打ち所のない人格・金持ち……という設定だと、成長物語としてやや物足りません。なぜなら、そんな人ならヒロイン以外とでも幸せになれる可能性を持っているからです。よって、当て馬止まりです」

 本命は違います。彼らは得てして信じられない秘密や、重大な欠点を持っており、しかも、それをヒロインにしか見せることができません。だからこそ、ヒロインとの恋が始まるのです。

 以上の特徴をフルバに当てはめるとどうなるかというと……。

「厳密には赤毛ですが、黒髪に近いという意味で、本命は夾です。性格面では、由希がクール、夾が熱血という風に、どちらにも本命っぽさがあります。ただし、『本当の真実のあなたの価値を知っている』という少女漫画的な視線で考えると、化け物のような姿になってしまう夾と恋仲になることが、ストーリーとしては自然です」

●そもそも、透と由希と夾は「三角関係ではない」

 さて、ここまで『フルーツバスケット』を、無理やり、本命・当て馬に分けて考えてはみましたが、紙屋さんいわく、「そもそも『フルーツバスケット』は、恋愛をテーマにした作品ではないので、本命・当て馬や、三角関係の図式は当てはまらないでしょう」とのこと。

「私はこの漫画のテーマは、『人はどうやって受け入れられていくのか』だと思っています。主人公の透は、出会うすべての人を受容することのできる女性。呪いを背負ってきた十二支の面々は透に出会って受け入れられることで、変わっていくのであって、そこがこの物語の核なのです」

 結果的には、透と夾が恋人という関係になりましたが、人と人との繋がりは、なにも恋愛だけではありません。それを表しているのが、由希の存在です。

「由希はクライマックスで透に対し、母性を感じていたことを打ち明けます。一緒に暮らしていく中で、母のような居心地の良さを透に感じたのでしょう。『由希と透』は恋愛を超えた、もっと大きな関係を築き上げたのだと、私は思います」

 分析しようと思えば、まだまだ深掘りできそうな『フルーツバスケット』。連載終了から10年以上経つ今もなお、根強い人気を誇るのは、読む人に様々な見方を提供してくれるからなのかもしれません。

文=島野美穂(清談社)