24歳で乳がん発覚…。元・日テレ記者が右胸を失って絶望の淵から這い上がるまでの軌跡

暮らし

2019/3/24

『もしすべてのことに意味があるなら』(鈴木美穂/ダイヤモンド社)

 健康というだけで、どれだけ幸せだろうか。仕事に就ける当たり前、結婚する当たり前、友人や家族と楽しく過ごす当たり前。どれも私たちの日常に疑いなく存在していて、おかげで今日も、いつもと同じ生活を送ることができる。未来に希望が持てる。

 でも、もし健康じゃなくなったら?

「その日」は突然やってくるかもしれない。仕事も結婚も、友人や家族と楽しく過ごすことも、望めなくなるかもしれない。

『もしすべてのことに意味があるなら』(鈴木美穂/ダイヤモンド社)は、私たちに大事なことを気づかせてくれる。著者は、日本テレビ系の情報番組『スッキリ』や『情報ライブ ミヤネ屋』でキャスターを務めた鈴木美穂さん。

 鈴木さんは、自身が乳がんを患ったときの体験を、乳がんを克服した今だから伝えたいことを、本書にありのまま記している。

■先延ばしにした「小さな違和感」が最悪の形で的中する

 今から約11年前。鈴木さんは日本テレビの記者としてバリバリ働いていた。仕事に恋にプライベートに、将来ある24歳の若者として、毎日に一喜一憂しながら人生を歩んできた。

 本書から察するに、鈴木さんは他の24歳の若者よりメリハリのある日常を送っていたに違いない。テレビ局の記者クラブの華やかさと過酷さを本書の冒頭からなんとなくうかがいしれる。

 ところが充実した日常は、「小さな違和感」を境に一変してしまう。

 あるとき鈴木さんは右胸に「しこり」を感じた。コリコリする小さな存在は、鈴木さんを不安にさせた。けれども仕事の多忙を理由に、「なくなっていますように」と願うことで忘れた。先延ばしにしてしまった。

 鈴木さんはこのときのことを、「小さな違和感も残さないで」と自身に伝えたい、と振り返る。検査を受けて良性ならば安心できる。悪性だったらいち早く治療を行える。病気は早いうちに手を打ったほうが治りやすい。

 先延ばしにした不安は、最悪の形で的中した。鈴木さんは24歳にして、乳がんを患ってしまった。ここから苦しい闘病が始まる。

■お願いだから、まだ死にたくない

 乳がんが発覚してから、鈴木さんの日常は一変した。仕事を休職することなり、乳がんを克服するための生活に変わった。セカンドオピニオンを受けた医師からは「正直厳しいですね」「2年後があるかどうか…」とさえ言われた。

 当たり前の日常が崩れ去った絶望は、本書にありのまま記されている。

お願いだから、まだ死にたくない。仕事は道半ば、入社試験で「自分にしかつくれないドキュメンタリー番組をつくる」と熱く語った目標はまだ実現できていない。さあこれからと思っていた親孝行も、いつか当たり前のようにできると思っていた結婚も出産も叶わず、絶対に行くと決めていた世界一周も夢のまま、人生が終わってしまうなんて――。

 地べたにうずくまり、膝をかかえて号泣する場面を目にすると、とても胸が痛む。両親に「ごめんね」と泣きながら謝るエピソードに、言葉をなくす。本書を読むと、自身の健康が、日常が、将来について考える時間が、どれだけ素晴らしいものか思い知らされる。

 私たちの日常は当たり前だけど、かけがえのないものだ。健康は幸せで、何よりも大事にするべきものだ。それに気づかなければ、あっという間に失ってしまうかもしれない。

 本書に記された出来事は決して他人事ではない。そう痛感させられる。

■命に関わる選択をするときは、どんな遠慮もいらない

 乳がんを患い絶望の淵に立たされた鈴木さん。将来を悲観するネガティブな感情に襲われたことがあった。目の前が真っ暗で、死を予感するときがあった。

 しかし鈴木さんは強かった。

 不幸中の幸いか、乳がんは右乳房以外に見つからなかった。24歳にして右胸を失うショックに涙を流すことがあったものの、「きっと大丈夫、なんとかなるから」と信じることで、がんを乗り越える決意をした。

 手術で右胸を摘出し、再発転移の予防のために抗がん剤を服用。その苦しい闘病の様子は、本書に並ぶ文字からヒシヒシと伝わる。そして同時に、どれだけ不安に陥ろうとも前を向いて治療に専念する鈴木さんの強い思いを感じた。

 がんを患うと、その2文字さえ見たくなくなる。けれども病気を克服するならば、まず敵を知らなければならない。だから担当医師からできるだけがんについて聞き出し、基礎知識を得る。治療についてもしっかり相談して、セカンドオピニオンも積極的に活用する。信頼できる先生を見つけ出し、自分に合った治療方針を選択する。

 命に関わる選択をするときは、どんな遠慮もいらない。鈴木さんは生きるために、乳がんと真正面から向き合った。

人は皆、なにがあっても、「この自分」「このわたし」で生きていかなければなりません。
当たり前のことではありますが、どんな傷を負っても、どんなに自分のことが嫌いになっても、「わたし」を誰かに代わってもらうことはできない。この世に生きる限り、「わたし」を生き抜いていかないといけない。

 本書の中でも力強く光るこの言葉が、きっと読者の胸を打つだろう。

 2018年9月、鈴木さんは乳がんを克服し、最愛の人との結婚を果たした。夢だったテレビ局の仕事を辞め、今ではがん患者や家族が無料で相談できる「マギーズ東京」の共同代表理事を務める。表紙を飾る鈴木さんの笑顔がまぶしい。

 本書は私たちに大事なことを気づかせてくれる。乳がんを克服した鈴木さんだからこそ伝えられるエールが記されている。

 もし何かがきっかけで当たり前のことが当たり前じゃなくなったとき、本書に記された言葉を頼ってほしい。まずは前を向く大切さを教えてくれるはずだ。

文=いのうえゆきひろ