「あいつはサイコパス」という決めつけこそ残虐なサイコパス気質につながる? 犯罪史に残る凶悪犯の言葉

社会

2019/5/9

『サイコパスの言葉』(クリストファー・ベリー=ディー:著、ドーラン優子:訳/エクスナレッジ)

 コリン・ウィルソンの一連の著作や、『FBI心理分析官』(ロバート・K.レスラー、トム・シャットマン/早川書房)などにより、異常で残忍な犯行を繰り返すシリアルキラーやサイコキラーの存在は日本でもなじみのあるものとなった。本稿で紹介する『サイコパスの言葉』(クリストファー・ベリー=ディー:著、ドーラン優子:訳/エクスナレッジ)も、そんなサイコパス(反社会性パーソナリティ障害)やサヴェッジ(残虐な暴力性を持った人間)の世界を扱った1冊である。

 著者は、世界中のシリアルキラーや大量殺人者に取材・調査を行ってきたイギリスの犯罪ジャーナリストだ。ちなみに、エリザベス1世の宮廷占星術師だったジョン・ディー博士の子孫だというから、オカルト好きな方は「おやっ」と思うかもしれない。

■丘の絞殺魔、死神先生、アイスクイーン…犯罪史に残る凶悪殺人者の心理とは?

 本書では、著者が直接・間接的に取材したさまざまな凶悪殺人者が、ケース・スタディとして紹介され、その精神世界を探ることでサイコパスの心理を解き明かそうとする。本書で紹介されている凶悪殺人者は、13人以上の女性を殺し「丘の絞殺魔」と呼ばれたケネス・ビアンキや、長年にわたり250名以上の患者に致死量のヘロインを注射して殺してきた「死神先生」こと医師のハロルド・シップマン、鎮静薬入りの酒を夫に飲ませた上で射殺、その後、遺体をバラバラにしてスーツケース3つに詰め、湖に捨てたことで「アイスクイーン」の異名を持つメラニー・マクガイアなど多岐におよぶ。

 これら凶悪殺人者には、男性もいれば女性もいるし、社会的に成功していた者もいればそうでない者もいる。パラリンピック金メダリストであり熱心な慈善活動家としても知られていながら、衝動的に恋人に銃弾を4発撃ちこんで殺害した南アフリカのピストリウスのような人物のケースについても紹介されている。

■あなたの隣人は「サイコパスでない」と言い切れるか?

 こういったサイコパスたちに共通しているのが、過剰な「自己愛」や「攻撃性」、そして「支配欲」であるという。また、多くの場合は「虚言癖」があり、「共感性が低く」、「見た目がいい」という共通点を持っている。だが、なぜサイコパス的な気質を持った人間が生まれてしまうかについては専門家の意見は分かれており、現在も明確にはわかっていない。

 さらに、サイコパスと正常な人間の“線引き”も実はあいまいだ。本書によれば、サイコパス気質の強い人間は「口がうまい点や見かけの魅力、我を通す性格によって、かなりの成功を収める。経営者やプロスポーツ選手、軍人、政治家になったり、また危険を顧みない勇気や素直な言動、困難に打ち勝つ意欲で周囲から尊敬されたりもする」という。そして、人口の約1パーセントはサイコパス的な気質を持っているともいう。つまり、凶悪な犯罪者だけでなく、どこにでもサイコパスはいるかもしれないのだ。

 しかし、だからといって、あなたの周囲にいるちょっと理不尽な上司や、意地悪なママ友、あるいは不愉快な隣人などを、「あいつはサイコパスだ」と決めつけるのは非常に危険なことである。なぜならば、そういった決めつけの偏狭さや不寛容さ自体が、サイコパスの特徴のひとつだからだ。それよりも、ふだんから自分自身にサイコパス的気質がないか、サイコパス的にふるまっていないかと気をつけるほうが健全だろう。

 本書には、サイコパスを判定するための心理学的な検査方法である「サイコパスチェックリスト(PCL-R)」も載っている。このチェックリストを見ても専門家以外には正確な判定はできないと注釈されているが、本書に目を通して、自分をチェックしてみてもいいかもしれない。

文=奈落一騎/バーネット