“書店員が育てたヒット作”累計30万部突破!『あずかりやさん』シリーズ待望の新刊

文芸・カルチャー

2019/5/14

『あずかりやさん 彼女の青い鳥』(大山淳子/ポプラ社)

 学生時代のテスト前、つい手にしてしまったコミックやゲームのせいで、何時間も勉強をせずに過ごした。ああ、この大好きなコミックやゲーム、手放すのは嫌だけど、テスト期間の間だけ、目につかないところにやれたらいいのに──そんな思いをしたことがある人なら、『あずかりやさん』(大山淳子/ポプラ社)に立ち寄る人たちの心境が、しみじみとわかるだろう。

“あずかりや”は、とある商店街のはじにある。看板はない。そこが店舗だと知る手立ては、シンプルな藍染めののれんだけだ。のれんをくぐると、薄暗い6畳間の片隅で、美しいたたずまいの青年店主が本を読んでいる。店主は、文机に大きな本を置き、てのひらで慈しむように何度も撫でる。暗くなっても灯りはつけない。目で字を追う必要がないから──彼の目は、見えていないからだ。

 店主の目が不自由であることは、あずかりや稼業には有利に働くらしい。あずかりものを見たり読んだりすることはできないし、お客さまの顔を見ることもないからだ。変に詮索されることがないので、お客さまは安心してものをあずけられる。

 あずかり賃は前払いで、どんなものでも1日100円。期日より早く取りに来てもあずかり賃は返金されず、期日をすぎても取りにいかなければ、あずけた品は店主のものになる。

“あずかりや”には、さまざまなものがあずけられる。アンティークのオルゴール、記入済みの離婚届、図書館で借りたまま返せなくなった本、生まれたての子猫……。商売に誠実な店主は、やってくるものを拒まない。きっぱりと平等に、真心をこめて、それぞれに事情を抱えるお客さまから、あずかりものを引き受ける。

“あずかりや”に流れる、おだやかで、ちょっぴり不思議で、ときおりほろりとくる日常が描かれる第1巻に続き、第2巻の『あずかりやさん 桐島くんの青春』(大山淳子/ポプラ社)では、店主の桐島透が、この奇妙な商売をはじめるきっかけとなった青春時代が語られる。

 そして最新刊『あずかりやさん 彼女の青い鳥』(大山淳子/ポプラ社)では、ものをあずけることで生まれる時間を、しっかりと体感できる。13年前に届いた手紙、30年前に書かれた売れない作家の渾身の作、未来に託された女子中学生の恋心──日々は無為に過ぎているように思えても、足元でたしかにつながっている。努力も、愛情も、ひそかな決意も、未来の自分へと送り届けることができるのだ。

 実は、本作には、栃木県にある「うさぎや書店」の推薦で話題になり、シリーズ累計30万部を突破したという隠れたストーリーがある。いわば「書店が育てた文芸書」だ。そういえば書店は、作り手から受け取った書籍を、読み手が手に取るまであずかっておくという“あずかりや”の一形態だとも言えるかもしれない。そこで働く本の目利き、書店員さんが薦めるというのだから、その読み応えは想像に難くないだろう。

 第3弾となる本作は、単行本と文庫本が同時に刊行され、文庫には元書店員さんが作った手作りカバーが、単行本には購入者プレゼントがつくことが決まっている。

“あずかりや”があずかるのは、ものであって、ものではない。ものにこめられた想いを、時間を、人との絆を、あたかもてのひらで受け取るように実感させてくれる“あずかりや”の商いを、あなたも味わってみてほしい。

文=三田ゆき

単行本の特別カバー

文庫の特別カバー