絶品サンドイッチに癒される! 『思い出のとき修理します』の著者による「心のごちそう」にほっこり

文芸・カルチャー

2019/5/15

『めぐり逢いサンドイッチ』(谷瑞恵/KADOKAWA)

 ふわふわの食パンにさまざまな具材を挟み込み、美しく切りそろえられたサンドイッチ。断面の色鮮やかなコントラストは見るからにおいしそう。わくわくしながら手に取り、ひと口食べた時に最初に感じる、もっちりとしたパンの食感…なんとも幸せな一瞬だ。まさに、おにぎりと並びお弁当を支える「日本の国民食」、嫌いな人なんていないだろう。そしてもし、具材にこだわり、パンにこだわり、見た目も味も極上のサンドイッチを売る店があったなら、そこに小さくてもイートインスペースがあって、暖かいコーヒーが買えたりしたら…。最高の口福!毎日通ってしまいそうだ。

 『めぐり逢いサンドイッチ』の舞台、「ピクニック・バスケット」は、そんな理想そのもの、「夢」のサンドイッチ専門店だ。大阪の靭(うつぼ)公園(あの大坂なおみ選手がテニスを始めた場所!)に面しており、店舗そのものはごくごく小さいけれど、レンガ色の壁に白いドアのおしゃれな外観。軒の赤い屋根が可愛らしいアクセントだ。お店を切り盛りするのは東京出身の姉妹二人、笹子と蕗(ふき)子。ふんわりと柔らかでおっとりとした姉の笹子、笹ちゃんがサンドイッチをつくり、チャキチャキと元気な妹の蕗子、蕗ちゃんが販売を担当している。白くてふわふわとした笹ちゃんの手から生み出されるサンドイッチはまさに絶品。サンドイッチとしては思いがけない具材でも微妙に味を調節し、こだわりのパンに挟み込むことで絶妙にマッチング、一度食べたら忘れられないおいしさを作り出す。

 こんな魅力たっぷりの「ピクニック・バスケット」に、ある日ちょっとした事件が起こる。大人気商品「たまごサンド」が封も切らずに、公園のゴミ箱に捨てられていた、というのだ。なぜ封も切らずに? サンドイッチだから具材を見間違えるはずないし、これは新種の嫌がらせ? さまざまな憶測が、やがてひとつの確信となったとき、浮かび上がった、ある「味」とそれにまつわる苦い思い出…(第1話 タマゴサンドが大きらい)。

 こんなふうに「味」にまつわる小さな謎=思い出を解き明かしていく物語を5編まとめた本作だが、どの物語もどうしようもない切なさに満ちていて、思わずホロリとしてしまう。そんな閉じ込められた悲しみをそっと癒し、ほんのりあたたかな希望に変えてくれるのが、笹ちゃん特製のサンドイッチなのだ。サンドイッチを食べることで、わだかまりが少しずつ消えていく人々に共感し、なんだか自分までほんわりとあたたかな気持ちに包まれている。このほっこりとした読後の満足感、まさに絶品サンドイッチの味わいそのものだ。

 心やさしき青年時計士と屈託を持った美容師が織りなすハートウォーミングストーリーで大人気の『思い出のとき修理します』シリーズ。この著者である谷瑞恵氏が手がけた本作も、『思い出のとき…』ファンの期待通り、あちこちにさまざまな小さな謎がちりばめられていて読み飽きない。1つの短編が次の短編の伏線になっていたりと、ちょっとしたミステリー風の味付けが効いていて、一度読みだすとやめられないのだ。そして話の合間合間に登場するサンドイッチをはじめとした料理のおいしそうなこと! 心にしみる優しさに満ちた物語に謎ときのワクワク感を絶妙にブレンドした本作、美味しいサンドイッチのように一度味わったら虜になること請け合いだ。