小学生の読書感想文に『はれときどきぶた』が選ばれるワケ

文芸・カルチャー

2019/7/20

『はれときどきぶた』(矢玉四郎/岩崎書店)

 夏休みの宿題といえば読書感想文。『はれときどきぶた』(矢玉四郎/岩崎書店)は1980年の発売以来、40年近く愛され続けて150万部を突破している超ロングセラーである。毎年、夏になると読書感想文需要でネット書店の売上が上昇する、いわば小学生の読書感想文用書籍の「ド定番」、懐かしいと感じる人も多いのではないだろうか。

 簡単にストーリーを紹介(多くの人にとっては「おさらい」か)すると、主人公は小学生の畠山則安くん。則安くんは毎日、日記をつけているのだが、それをお母さんが盗み読みしていることに気づく。そこで則安くんはお母さんを驚かそうと、メチャクチャな内容の「あしたの日記」を書くことにしたのだが、なんと、その荒唐無稽な日記の内容がすべて現実になってしまう……というもの。タイトルの「はれときどきぶた」は、作品のクライマックスで則安くんがやけっぱち気味に「ぶたがふりました」と書いた日記が現実化したことが由来だ。

 この作品がこれほどまでに長く愛される理由は、まず単純な「面白さ」だろう。「金魚が部屋を飛び回る」「お母さんが鉛筆を天ぷらにする」そして「豚が空から降ってくる」。子どもも知っている動物や身近な道具を用いて描かれる「あり得ない状況」は、いかにも小学生くらいの子どもが喜びそうな、絶妙なバカバカしさに満ちている。小さな子どもが本に親しむようになるきっかけの1つは確実に「面白いから」だ。その点で本書には、本を読むのが苦手、という子どもでも、とっつきやすいキャッチーなバカバカしさ=面白さがある。

 だが、それだけが、『はれときどきぶた』の魅力ではない。大人が着目すべきは、そのバカバカしさに込めた、作者があとがきで触れているメッセージにある。

 現実にはあり得ない、バカバカしいことを日記に書くことは、言い方を変えると「常識にとらわれない、柔軟な発想力」が必要とされる行為だ。いつの時代も、人類の進歩は、多くの人が「バカバカしい」と笑うようなことを誰かが思いつき、それを本気で実現させようと挑戦することから始まった。また、そういった発想力は想像力ともいえ、人間が何かの判断を迫られたとき、あるいは大人になって何かの事象について考えるとき、自分自身の頭で考えられる力を養うことにもつながる。

 もし子どもが『はれときどきぶた』を読み、笑い転げ、自分も「あしたの日記」を書いてみよう、なんて思ったら、それは発想力や自分の頭で考える力が育まれ始めた証しといえるかもしれない。

 子どもが喜ぶとっつきやすいバカバカしさと、そこに込められた深遠な作者のメッセージの見事な融合。それが読書感想文用書籍として『はれときどきぶた』が愛され続けている理由ではないだろうか。

 おりしも教育界では子どもがより能動的に学び、物事に取り組み、判断できる力を養うアクティブ・ラーニングの重要性が叫ばれ、2020年度から導入される新学習指導要領でも、改革ポイントになっている。まさに時代が『はれときどきぶた』に追いついた、とでも言いたくなるような状況。『はれときどきぶた』は、今後も古びることなく、小学生の定番図書として愛され続けそうである。

文=田澤健一郎