今期大注目の社会人ラグビードラマ『ノーサイド・ゲーム』 半沢直樹、下町ロケットに続く池井戸作品の魅力とは?

文芸・カルチャー

公開日:2019/7/28

『ノーサイド・ゲーム』(池井戸潤/ダイヤモンド社)

 ラグビーワールドカップまでいよいよ100日を切りました。それに先立ち、7月7日からTBS系列でラグビードラマ『ノーサイド・ゲーム』が始まりました。原作者は「半沢直樹」でもおなじみの池井戸潤氏。企業小説の名手が描くラグビーは選手ではなく、「外側から関わる人々」という切り口でした。

■ラグビーを「外側から」描く――企業所属のラグビーチーム

 舞台は、トキワ自動車という自動車メーカー。経営企画室に所属していた主人公・君嶋隼人は突然、ラグビーチームのゼネラルマネージャー就任を命じられます。「プラチナリーグ」を戦うトキワ自動車のチーム「アストロズ」は成績も低迷中、集客もない会社のお荷物的存在。実質的な左遷人事です。君嶋は腐ることなく、社会人ラグビーを取り巻く現状と関係者が描く理想とのギャップに驚きつつ、チームを改善する決意を固める。アストロズを存続・優勝させるために戦い始めます。

 実は日本ラグビーは基本的にはアマチュアの世界。各チームは企業の一部であり、社員である選手も多いのです。つまり、会社の一存で予算、存続すらも決められてしまう。トキワ自動車のチーム「アストロズ」は採算が全く取れておらず、莫大な予算を食いつぶして結果を出せていない状況です。経営企画室にいた君嶋はカネの問題に冷静に向き合いながら、メンバーのボランティア参加やジュニアチームの創設など、ファンを増やして集客するために次々と策を打っていきます。

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 廃部をちらつかせる社内だけではなく、「ラグビーは高貴なスポーツ」と無頓着なラグビー協会とも対決。内外どちらからもチームを守ろうと必死に動きます。

 第三章ラスト、チームの新監督が決まったとき、君嶋は、

「アストロズは、任せた。だからグラウンド外の戦いは――オレに任せろ」

 と言い切ります。押し付けられた理不尽に応え、常にアストロズのために全力を尽くす君嶋。選手ではなくグラウンド外の人間を主人公に据え、ラグビーチームが企業の一部であるということを描いた本作品。ラグビーに縁がなくてもきっと楽しめます。

■ラグビーの試合も、会社で起きる事件もスリリング!

 もちろん、ラグビーを観に行きたくなる試合描写も充実! ラグビーの醍醐味はフィジカルを要求されると同時に、頭を使うスマートなスポーツでもあることです。15人のポジション・役割は明確に決まっており、全員一丸でゴールゾーンへのトライ(得点)を目指します。

 必死で走りながらボールを守り、試合時間、戦局、ほかの選手の位置などを常に考え、最善の一手をすぐさま打たねばなりません。相手選手が突進してくる中、不規則な回転をする楕円のボールを蹴るポジションもあります。ときには相手選手と激しく接触し、ケガをすることも!

 アストロズの選手が対戦相手とどう戦い、どのように点を取っていくのか。読むとラグビーの攻撃の多彩さに驚くはずです。得点の方法は、ボールを相手の陣地に置く「トライ」と、ゴールポストに蹴り入れる「キック」のほぼ2種しかありません。15人がどのように得点を取るべく戦っているのか。目次の前に各ポジションの位置がイラストで載っているので、参照しながら読むのがおすすめです。

 また、池井戸作品ならではの社内政治対決や、企業買収も登場。一見ラグビーチームとは何の関係もなさそうですが、アストロズの存続に複雑に絡み始めます。君嶋はそちらでも西に東に奔走する大活躍。裏で暗躍する人々とのやり取りは池井戸ファンにはたまらない緊張感にあふれています。ラストはきっと、スカッとするはず!

 ラグビーに愛情を持つ人々が、精一杯自分たちにできることを頑張る本作品。2015年の対南アフリカ戦でラグビー日本代表が挙げた歴史的な勝利は、日本中の人の心を打ちました。その周りにもきっと、こんな風にラグビーを愛し、打ち込む人々がいたことでしょう。

 9月20日には「開催地・日本」のラグビーワールドカップが始まります。今から読めば倍返しどころか、「三倍返し」でドラマもラグビーも楽しめること間違いなし!?

文=宇野なおみ