問題は「老後2000万円」じゃない?一生涯の安心のために我が子を「居心地の悪い場所」に送り出すという逆説

出産・子育て

2019/7/29

『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ』(小笠原泰/プレジデント社)

「一生困らない生き方をしたい」「誰も経験したことのない時代を生きていかなければならない」…。老後2000万円問題を機に、人生100年時代への関心がより高まっています。誰もが感じている漠然とした不安の中で、どのように子どもを育てればよいか頭を悩ませている保護者の方は多いのではないでしょうか。

 そんな保護者に一読をすすめたいのが『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ』(小笠原泰/プレジデント社)です。本書の内容を一言でいえば「わが子の生存確率を高めるために親がやるべきことをまとめた一冊」であるといえるでしょう。副題は「時代に先駆け多様なキャリアから学んだ“体験的サバイバル戦略”」です。

 多様なキャリアから学んだサバイバル戦略を伝える著者はどのような経歴の持ち主なのでしょうか。現在の肩書は明治大学教授。同時にフランスの大学の客員教授でもあります。東京大学文学部を卒業し、シカゴ大学、マッキンゼー、フォルクスワーゲンを経て、オランダやイギリスの会社なども経験しています。

 日本と海外の双方での職業経験や生活経験が豊富な著者による本書の前半は、日本の政治や教育システム、ニュースなどを交えた日本社会の状況分析に多くのページが割かれています。子どもや自分自身の生存戦略に関心が高い読者なら「自分の感じていた違和感の正体はこういうことだったのか」と感じる部分は多いでしょう。

 ところで、最近「人生100年時代を生き抜く」ことが自明になっている感があります。そもそも、なぜサバイバルの必要があるのでしょうか。人生100年時代を語る上で登場するキーワードがあります。「グローバル化」です。

 私たち日本人はグローバル化というと言語の問題ととらえる傾向がありますが、問題は言語の問題だけではないようです。グローバル化の本質とは、デジタルテクノロジーの革新によって、よいものがより安く、早く手に入る世界のことでもあります。テクノロジーのおかげで、これまでは一部の人しか手に入れられなかった情報を一般の人が手に入れることが簡単になりました。

 グローバル社会では国境の概念がなくなり、取引コストが大幅に下がります。これはテクノロジーによって可能になることですが、労働者であると同時に消費者でもある私たちにとって、テクノロジーは「対応するか、しないか」の選択の余地はありません。対応しない場合に待っているのは、淘汰です。著者はグローバル化とは「進化」だといいます。日本はとても居心地がいいですが、いやおうなしに変化はやって来るもの。たとえ居心地が悪くなっても、それに対応しないのは自殺行為なのです。

 著者は日本の大学教員であるにもかかわらず、日本の教育システムについては相当の疑念を持っているようです。むしろ、日本の教育制度それ自体「終わっている」と言わんばかり。そんな大学教員としての著者のミッションは「一人でも多くの学生をこのネバーランドから出ていけるようにすること」だそうです。

 本書で特に問題視しているのは、日本人の同質性の高さやみんなと同じことをしていれば安心という意識です。キャリアだけでなく生活拠点についてもさまざまな場所を経験したことのある著者だからこそ本書をまとめることができたのだろうと感じます。

 あまりにも鋭い指摘と歯に衣着せぬ表現のため、中には読んでいて不快感を抱く人もいるかもしれません。しかし、著者の指摘は多かれ少なかれ事実であることを認めなければならないでしょう。

 子どもたちをネバーランドから脱出させる教育をしたい人にとって必読の書です。

文=いづつえり