中高年のひきこもり“8050問題”。親世代が持っておくべき意識とは?

暮らし

2019/8/2

『親から始まる ひきこもり回復』(桝田智彦/ハート出版)
桝田 智彦

 近年、少子高齢化に伴い「8050問題」が指摘されています。ひきこもりが長期高齢化し、わが子が50代、親世代が80代へ突入してきたといわれる時代。令和を迎えてから、たびたび続いたいくつかの凄惨な事件でもこのキーワードが使われていました。

 子どもを自立させるためには、どんな意識が求められるのか。臨床心理士による書籍『親から始まる ひきこもり回復』(桝田智彦/ハート出版)は、心理学的な裏付けを中心に、親世代へ向けて“ひきこもるわが子への考え方や回復への全体像”を紹介する一冊です。

■子どもに自分の理想を押し付けるのはひきこもりのきっかけに

 現状、ひきこもっている青年たちは「生きていても、死んでいても同じという絶望状態」に追いやられていると本書は指摘します。心理学的には「基本的信頼感」が土台にあり、何らかの理由で親との間に育まれぬまま「人を信じられず、自分を信じられない状態」へ陥り、生きづらさを抱えてしまう事例も少なくありません。

 相談を受ける中で、著者は時折「私は子どもを深く愛してきましたし、きちんと関わってきたつもりです」と話す親たちに会うといいます。しかし、いざ省みると「ああしなきゃダメ、こうしなきゃダメ」と子どもに対して「自分が望むような子」を押し付けてきた場合もあり、ひいてはこれが「親の拒否感」を生む要因にもなりうると警鐘を鳴らします。

 ひきこもりからの回復を目指すのならば、まずは「親を信じる」という気持ちを芽生えさせるのが大切。基本的信頼感を育み、親は「わが子の味方」という意識を持ちつつ、子どもと接することを出発点としています。

■さりげなく一声かけるのも回復への土台作りになりうる

 自室にひきこもるわが子に話しかけるべきか否か。親にとっては、いつかのタイミングで直面する壁かもしれません。しかし、そんな場面でも「扉越しにでも声をかけてください」と本書は諭します。

 愛情の反対は「無関心」であると指摘する著者。親がまったく声をかけないと子どもは「愛されていない」「大事に思われていない」と考えるようになり、ますます自分に存在価値を見出せなくなるといいます。

 では、どうするべきかといえば、当たり前の言葉を投げかけることが大切だと本書は述べています。例えば、朝起きたら「おはよう」、出かけるときには「出かけてくるね」と一声かけるだけでも、子どもは「家族の一員なのだ」と思えるようになり、ひきこもりからの回復を目指すための土台作りにもなりうると提案しています。

■暴力に訴えてきたら“警察”へ駆け込む意識も必要

 ひきこもりからの回復までの過程で、ときには子どもが暴力もいとわずに自分の思いを訴える「吐き出し」という時期があるといいます。社会復帰までの出発点とすると大切な過程なのですが、身の危険を感じるならば「警察の力で、暴力は許されないことであると強くインプットする」ための線引きも必要だと、本書は警告しています。

 その決断ができるかは“親としての力量”にも関わってくると著者は指摘していますが、相談へやってくる親たちの中には「警察を使わなければならないなんて恥だ! このどこが療法なんだ!」とまくし立てる人もいるといいます。

 しかし、暴力をふるった時点で、子どもからすれば「自分をこんなところまで追い詰めた親が悪いから殴ってしまっても仕方ないという論法」が働いている可能性もあり、心を鬼にして、自立までの糸口と割り切り警察を頼るという選択肢も大切です。

 本書は子どもの意思や目的、アイデンティティといった項目ごとに、子どもをひきこもりから救いたい親に寄り添った内容が書かれているので、今まさに直面している人たちはもちろん、子を持つ親としてはある意味で反面教師にして、子どもとの向き合い方を見つめ直す機会になるはずです。

文=青山悠