『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレック主演、脱獄映画の金字塔『パピヨン』原作に登場する囚人は存在した!

エンタメ

2019/8/4

『パピヨン』(アンリ・シャリエール:著、平井啓之:訳/河出書房新社)

 世界各国で社会現象ともいえる爆発的なヒットを巻き起こしたクイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』。今年5月には興行収入130億円を突破し、日本における歴代興行収入16位に躍り出た。

 同作品で2019年(第91回)アカデミー主演男優賞、ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)など数々の賞に輝き、一躍スターダムにのし上がった主演俳優のラミ・マレック。ボヘラプ熱も冷めやらぬ6月21日(金)、彼の最新作となる映画『パピヨン』(2017年製作)が封切られ、現在もスクリーンで公開中だ。

 映画『パピヨン』といえば、“キング・オブ・クール”と称された二枚目俳優スティーヴ・マックィーンと名優ダスティン・ホフマンが共演した1974年公開の映画史に名を刻む傑作であり、脱獄映画の金字塔と言われる作品だ。オリジナルの製作から45年ぶりとなるリメイク版で、マレックはダスティン・ホフマンが演じた主人公の相棒、ルイ・ドガ役に挑んでいる。偶然か必然か、『パピヨン』もまた実話を基にした伝記映画だ。

オスカー俳優、ラミ・マレックの実力発揮

『ボヘミアン・ラプソディ』では、フレディ・マーキュリーが憑依したかのようなライブ・シーンで観客に鳥肌を立たせたマレックだが、『パピヨン』でもルイ・ドガという難しい役どころを見事に演じ切っている。

 紙幣偽造の罪で投獄された元役人のルイ・ドガは、主人公と利害が一致し、いわば契約を結ぶ。ドガの持つ狡猾さと危うさを、マレックは最大の武器であるギョロ目でオーバーアクトに表現する。

 主人公を演じるチャーリー・ハナムが分かりやすいマッチョなイケメンなのとは対照的に、ファニー・フェイスで華奢なラミ・マレックだが、時間を追うごとに魅力的な男に見えてくるのもマレックの実力のなせる業だろう。マレックの演技力を再確認するという意味でも、リメイク作は十分観賞に値する作品だといえる。

地獄を生き抜いた実在の囚人たち

 この作品、何がすごいかと言えば、ほとんどが実話であり、原作者であるアンリ・シャリエール(1906―1973)こそが胸に蝶のタトゥーを入れたパピヨン本人であること、そして登場する百戦錬磨の囚人たちが実在の人物であることだ。凄腕の金庫破りであるパピヨンが身に覚えのない殺人罪で無期懲役を言い渡され、「人間を壊すための刑務所」(ギアナの刑務所)で地獄の囚人生活を送った挙句に悪魔の島への島流しに遭う。それらは全部、作者自身の生身の体験談だ。

 一癖も二癖もある囚人たちは悲惨な死を遂げる者もいれば、パピヨン同様、地獄の門をかいくぐり、生き延びた輩もいる。パピヨンの脱獄は、なんと9回に及んだという。その恐るべきバイタリティーと強靭なメンタリティには、もはやひれ伏すしかない。それと同時にシャリエールが実体験を表現する類まれなる文才を持ち合わせていたことは、原作を読めばおのずと解る。

 ちなみにマレック演じるルイ・ドガは、原作では少ししか登場せず、この点において映画と原作は大きく異なる。オリジナル版の映画化にあたり、スティーヴ・マックィーンとダスティン・ホフマンという2大スターのバディ・ムービーに仕立てたいという製作者側の意向が反映されている。映画版のルイ・ドガは原作の複数の人物を掛け合わせたものだと言われており、それを推測するのもお楽しみの一つだ。

 先に映画を観賞し、続いて原作のページをめくっていただきたい。ちょうど50年前、1969年に発表された長編小説『パピヨン』は当時、累計1000万部のベストセラーとなっている。半世紀を経た今もなお、不死鳥ならぬ“不死蝶”パピヨンの男気あふれる魅力に、誰をが“虜”になってしまうはずだ。

文=角山奈保子