「亡き夫のために、整形して憎い男の妻になりました」壮絶な復讐劇の結末は?

文芸・カルチャー

2019/8/12

『灼熱』(秋吉理香子/PHP研究所)

 たったひとりの人物との出会いが、人生を焼き尽くしてしまうようなことがある。心や頭に焼印のように刻み付けられた存在を、人はどう慈しんでいけばいいのだろうか。『灼熱』(秋吉理香子/PHP研究所)は、読後にそんな想いに駆られる衝撃作だ。

 本作の著者はこれまで『暗黒女子』(双葉社)や『絶対正義』(幻冬舎)を手がけており、人の心に宿るドロドロとした闇をまざまざと描くプロ。その筆力は本作からも感じとれる。

■亡き夫の死を解明すべく、憎い男の妻に

 主人公の絵里は医者である久保河内英雄と入籍し、同居を始めたばかりだ。おいしい手料理を振舞い、仕事へ出かけていく英雄を見送る絵里は幸せいっぱいのように見える。しかし、絵里はこの結婚を通じて、誰にも言えないような復讐を遂げようと目論んでいた。

 彼女の本当の名前は実は別にある。ことの発端は1年前に起きた悲しい出来事。当時、絵里は忠時という男性と結婚し、幸福な生活を噛みしめていた。しかし、ある日、忠時がマンションのベランダから転落し、命を落としたことで絵里の人生は一変する。

 絵里はその事件後、忠時がリストラにあい、投資詐欺を何件も働いていたことを刑事から聞かされ初めて知った。そして、忠時が行っていた投資詐欺の被害者が、現在の夫・英雄なのだ。

 忠時の死は事故か自殺だと思われていたが、調べが進むうちに英雄が容疑者として浮上。だが、証拠不十分で英雄は不起訴になった。それに絶望した彼女は生きる気力をなくし、自殺志願者を募るインターネット上のサイトで佐藤絵里という女性と知り合う。

 2人は共に自殺を試みたが、彼女ひとりが生き残ってしまった。そこで絵里になりすまし、英雄に近づいて復讐を遂げようと思い立つ。

 さらに美容整形で絵里の顔を手に入れた彼女は、言葉巧みに英雄の心を掴み、自らプロポーズをして結婚にこぎつけた。殺したいほど憎い相手に妻として尽くし、心の中に居続ける忠時の死の真相を解明しようとする執念はすさまじい。

“憎い相手をそばに置き、衝動を飼い殺しながら、愛しているふりをするのは地獄だ。決して沈むことのない憎悪の太陽にあぶられ、絶望の熱砂に素足を灼かれ、憤怒の炎が体内に燃え盛っている。けれどもわたしは、この灼熱の地獄をたゆまず進む。”

 愛する人を失った孤独な女は、復讐という灼熱で自らの人生を燃やし尽くしても構わないと覚悟しているのだ。

 しかし、不思議なものだ。ひょんな出来事を機に彼女は新しい夫である英雄に惹かれ始め、ある疑問に苦しむようになる。「彼は本当に人を殺したりできる人なのだろうか?」ラストに近づくにつれ、読み手の背筋が凍るような本作。果たして英雄は善人なのか、はたまた善人にうまく化けた悪人なのだろうか――。

“犯した罪”はどうすれば償うことができるのかと考えさせられる本作は、涙と鳥肌なしには完読できない。あなたも予想外の結末や、いつの間にか自分の頬を伝う涙に驚くはずだ。

文=古川諭香