母校のセーラー服を着た23歳女子が街で出会った少年の正体は…? 誰もが抱える心の闇を癒す『真夜中だけの十七歳』

文芸・カルチャー

2019/8/24

『真夜中だけの十七歳』(櫻いいよ/ポプラ社)

「夜明け前が一番暗い」という言葉をよく耳にする。今はどんなに先行きが見えなくても、時が過ぎれば、明るい未来がやってくる。けれど、足りないものが光ではなく、食べ物ならばどうだろう。これ以上、なにも口にしなければ死んでしまう。でもあと3日ほど待てば、きっとおなかいっぱい食べられるから──「夜明け前が一番暗い」という言葉が、いかに気休めでしかないかがわかる。

 そんな真夜中の絶望に震える人物が、『真夜中だけの十七歳』(櫻いいよ/ポプラ社)の中にも登場する。

 時本桃子は、高校を卒業してすぐに就職し、現在は営業補佐として働いている。仕事にやりがいは見出せないが、だからといって、気軽に転職を考えられるわけでもない。母は7年前に他界、父は5年前に脳梗塞で倒れて介護施設で暮らしている。自分が諦めた大学生活を、せめて妹には謳歌してほしい──その一心で、恋やおしゃれを楽しむこともなく、ただひたすら働いてきた。

 ところが肝心の妹は、ここ1年ほどバイトに励んでばかりいる。桃子が受験のことを口にすると機嫌を損ねてしまう始末だ。桃子の頭を悩ませるのは、妹の反抗的な態度ばかりではなかった。介護施設にいる父の生活にもお金がかかる。体は疲れ、気持ちも日に日に沈んでゆくが、それを理由にゆっくり休んでいる暇もない。

 桃子が高校の制服に再び袖を通したのは、そんなときのことだった。クローゼットを整理していて、母校の制服を見つけたのだ。これを着ていたころの自分は、今とは比べものにならないほど自由だった。切ない気分で、なんとなく制服を着てみる。たまたま訪ねてきたセールスマンが、自分を現役の高校生だと勘違いする。そのことに背中を押され、桃子は家の外に出た。

 桃子が週末の夜、制服を着て出かけるようになったのはそれからだ。長く続けるつもりはない、ほんの息抜きのつもりだった。それなのに、桃子は出会ってしまった。暗闇の中にいた自分の手をしっかりと掴み、明かりの灯る場所へと連れていってくれた彼──夜空にひとつだけ、自分を導くように輝きを放つ北極星のような、翠という名の少年に。

 翠は桃子のことを高校生だと思い込んだまま、自分がつるむグループへと引き入れた。翠を弟のようにかわいがる蒼甫、かわいらしい見た目のわりに気が強い真琴、お笑い担当の大輝、実家のうどん屋であたたかいうどんを振る舞ってくれる雄一。桃子は、深夜まで公園でたむろしている彼らのことを、今このときを楽しんでいるだけのいまどきの子だとしか思っていなかった。けれど彼らは、昼間は大人である桃子と同じく、それぞれに秘密を抱えていたのだ。

 夜明け前は、一番暗いときであると同時に、一番寒いときでもある。本書は、「明けない夜はない」などという無責任なことは言わない。だが、この闇が永遠に続いたとしても、夜明けを目指すことはできる。この夜に耐える者同士、寄り添い合い、ぬくもりを分け合うことはできる。

 誰もが抱える心の闇を、青春のきらめきで鮮やかに照らし癒す本作。ひとりきりの夜に震えるあなたに、この本が寄り添うことを切に祈る。

文=三田ゆき