会社に行きたくない、そんな朝に。人生にぐったりしたあなたに効く“73の逃避の名言”

文芸・カルチャー

2019/8/26

『逃避の名言集』(山口路子/大和書房)

 休み明けはいつもどおり仕事に追われる平凡な日常がたまらなく憂鬱に思えてしまう。特に深刻な事情や悩みがあるわけではないけれど、ふと逃げ出したくなってしまうことも多いのではないだろうか。『逃避の名言集』(山口路子/大和書房)には、そんな日の心を楽にしてくれる全73もの言葉が収録されている。

 本書は、三島由紀夫やピカソといった時代の異端児の名言や映画の台詞を、仕事や家庭、人付き合いなどさまざまなシチュエーション別に掲載。著者・山口さんによる丁寧な解説も楽しめる。本稿では仕事や人間関係に関する名言をいくつかご紹介していきたい。

■仕事から逃げ出したいあなたへ

 普通に暮らし、生きていくためには仕事をしなければならない。しかし、職場がブラック企業ではなくても「会社に行きたくない」「遊んで暮らしたい」と思うことはある。そんな気持ちになった時は、自分が現在抱えている仕事の量を見直してみることが大切かもしれない。

“明日できる仕事を今日するな。他人ができる仕事を自分がするな。”

 これは宗教を分かりやすく説いているひろさちやさんが、『「狂い」のすすめ』の中に記した名言だ。

 仕事ができる人や面倒見がいい人ほど他人の重荷や未来の不安を解消するため、抱える仕事量が多くなってしまいがち。しかし、時には仕事を先送りして羽を休めたり、他人の重荷を拒否したりして現在の自分に休息を作ってあげよう。

 また、独立や転職を考えながら職場に通い続けている方はフランスの作家レイモン・ジャンが原作を手がけた『読書する女』の一節を心に刻んでみてほしい。

“ねえ、君、人生では誰もが自由で誰もが独りなんだ。したいと思ったこと、楽しいと感じることをすればいい。でもそれには人に意見を求めてはいけない。”

 人生の転機を迎えた時、私たちは誰かに相談して進む道を検討することも多い。だが、自分の心が「これだ!」と思えるものがある時は人に意見を求めない強情さが必要。自分が決めた道なら、たとえ誰かに肯定されず認めてもらえなくても価値がある。

■人付き合いが苦手な人に効く人生の名言

 生きていく中で避けられないのが、人付き合い。同僚や上司、家族、恋人、友人など自分を取り囲む人が多くなるほど、私たちは誰とどう付き合っていけばいいのか悩んでしまう。そんな人付き合いのモヤモヤを軽くしてくれる言葉も、本書にはたくさん収められている。

 例えば、職場でなかなか言いたいことが言えない方は、詩人・新川和江さんの「骨の隠し場所が……」からの名言を参考に、人付き合いにおいて一番大切なものはなんなのかを考えてみてほしい。

“人が一生のあいだに どうしても云わなければならない言葉というのは二言か 三言なのであろう はやばやと云ってしまうと 生きつづける理由がなくなるので 人はその言葉を どうでもいい どっさりの言葉の中にまぎれこませて 自分でも気づかぬふりをしているのだろう”

 生涯のうち、私たちは数えきれないほどの言葉を発するが、本当に大切なことや伝えなければならないことはほんの一握り。この詩に触れると、自分の意志を伝えることの大切さをしみじみと実感させられ、他人との付き合い方を見直したくなる。

 また、誰かのためについお節介を焼いて疲労困憊することが多いのなら作家・中山可穂さんの『サイゴン・タンゴ・カフェ』の名言から、他人とのほどよい距離の取り方を学んでみよう。

“過剰な愛はいつだってたやすく過剰な憎悪にすりかわるもの。”

 人に対する感情のおそろしさは、愛から憎悪への変換がたやすいところにある。優しい人ほど惜しみなく周りに愛を配るもの。しかし、その愛情がいつの間にか一方通行になりすぎて「してやっているのに…」という憎しみが生み出されてはいないだろうか。

“生き続ける”ということは一見、簡単なことのように思えるが、実はとても大変なこと。人はみな、心身のバランスをなんとか保ちながら一日一日を生き抜いている。そんな時、身近で「逃避」という休養を得られたら、再び自分を奮い立たせることができるだろう。憂鬱な気持ちだけでなく、ギリギリのところで生きている人の絶望感も軽くしてくれる本書は人生にぐったりしてしまった大人のマストアイテムになりそうだ。

文=古川諭香