人間、空と風、植物への愛が伝わるオムニバス。「このマンガがすごい!」受賞作品

公開日:2012/5/14

地上はポケットの中の庭

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:田中相 価格:540円

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●「オレ、なにやってんだろか」少年と少女と、家の庭で生まれた虫の友情を描いた「五月の庭」。
●老いてしまっても純粋なままの、名君と庭師の友情の「ファトマの第四庭園」。
●頑固爺かと思いきや、ただ怖がりなだけの老紳士。家族の笑顔と甘いタルトに囲まれた、表題作「地上はポケットの中の庭」。
●昔、自分たちの庭のように遊んでいた海で、溺れた友達を救えなかった青年が、数年ぶりに里帰りする、「ここはぼくの庭」。
●「この人天才だって思ったことある? 私はある」。自分の価値を見出せない女子高生のもやもやを描いた「まばたきはそれから」。
全五編の短編漫画。「このマンガがすごい! [オンナ編]」第5位受賞作品。

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もう、なんというか、空気が。人間が。草花が。すべてに対する作者の愛が詰まりに詰まっています。ストーリーはもちろん、独特感性を持つキャラクターが印象的でした。

この作品の登場人物は、一人として魅力のない人がいないんです。一番びっくりして、ああ、この人が好きだなぁと思ったのは、「地上はポケットの中の庭」で主人公が妻が身ごもったと知った時の反応です。

「生まれるってことはな…いつかしっしっ死んでしまうんだぞ…!!?」

子供ができるのが怖いんじゃなくって、生まれた子供がいつか死んでしまうのが怖いだなんて。嬉しいのも楽しいのも幸せなのも、いつか絶対になくなってしまうものなんだと。それでも、自分の誕生日に親族で大きな庭に集まって、大きなタルトを切り分けて、歌と踊りの中に自分がいる。どんなに終わりが怖くても、やっぱりそれは幸せですよね。

皮を剥いて皿に盛った桃をみて「わー…実家…」と思ったり。コンビニに迷い込んだコガネムシを助けたり。盲目の人のために、立体的な草花の刺繍をしたり。美人にひと目ぼれした瞬間に「あーあ」と思ったり。綺麗な顔なのに綺麗に笑えない妻と子と孫と。補習で夏休みが潰れて「んえ゛ーっ」と叫ぶ女子高生とか。なんかもう、本当に人間観察のたまもので、素敵だなあぁぁぁ…と、キュンキュンしてしまいます!

自然の空気に囲まれた人間が好きで好きでたまらない! そんな作者の気持ちが伝わってくる漫画です。


くしゃり。妻に似た、子と孫の笑顔

草の匂いが大好きな盲目の王と、王に名をもらった庭師

この桃は本当に実家ですねー!(笑)

何の才能もないちっぽけな自分に気付いた女子高生の叫び

この台詞が好きです。「どうか神様 またあそこへ」

エッセイ的なあとがきも面白い。それにしても自画像が可愛いです (C)田中相/講談社