孤独死の凄惨な現場をミニチュアで再現。ごみ屋敷や残されたペットから「人の思い」を読み取る

社会

更新日:2019/9/27

『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』(小島美羽/原書房)

 日本では現在、年間3万人が孤独死しており、社会問題にもなっている。誰にも看取られず自宅で亡くなり、ときには発見までに月日を有する孤独死は、誰だって迎えたくないエンディングだろう。ニュースなどで孤独死のことが取り上げられるたび、多くの人は気を付けようと意識するはずだ。だが、同時に心のどこかで「自分はきっと大丈夫」と、他人事のように思っていないだろうか。『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』(小島美羽/原書房)は、孤独死の現実をダイレクトに伝え、私たちの意識を一変させる1冊だ。

 本書には27歳の遺品整理人・小島さんがミニチュアで再現した孤独死の現場が収録されている。小島さんは父親の突然死を機に、22歳という若さで遺品整理・特殊清掃の仕事をはじめた。その中で、日本の報道では孤独死の現場写真にモザイクがかけられることが多く、最も核心をついた部分が隠されてしまっているのではと感じ、年齢問わず孤独死に対する危機感を持ってもらいたいと考えたことから、ミニチュアを制作するように。2016年に東京ビッグサイトで開催された葬儀業界の専門展示会「エンディング産業展」に出展すると、多くの反響が寄せられた。

 小島さんが生み出すミニチュアは、ときには血液や体液も再現されているため、より臨場感が伝わり、孤独な末路に至った背景に思いを馳せたくなる。本稿では、そんなミニチュア作品をいくつか紹介していきたい。

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■遺品整理人が目にした“孤独死の現場”

“わたしが現場に行くときには、すでに故人の姿はない。そういう仕事だ。遺族や大家さんから聞いた話と、ただ、「部屋」と「物」がそこに取り残されているだけ。でも、それらは雄弁に故人の人生を語っているようでもある。”

 そう語る小島さんは、これまでさまざまな物と思いが詰まった現場を片付けてきた。部屋に物が散らかったごみ屋敷も、そのひとつ。

写真:加藤甫
▲本書p.31より/写真:加藤甫

 ごみ屋敷はその人の怠惰によって引き起こされると思われがちだが、その背景には複雑な事情や苦悩が隠されていることが多い。

 例えば、職業上の理由。弁護士や看護師、芸能関係者など、激務に明け暮れる人は仕事でエネルギーを使い果たしてしまい、自分のことを後回しにした結果、ごみ屋敷となってしまいやすいという。また、看護師のように夜勤がある場合は収集時間にごみ出しが間に合わず、近所の人から注意を受けたことを気にしてごみ出しが怖くなることもあるのだという。

 また、ストーカー被害者は加害者に漁られることを恐れてごみを出せなくなったり、認知症や発達障害によって片付けや分類が困難になってしまうと、望まずして自宅がごみ屋敷化してしまったりすることも。大切な家族の死やペットとの別れ、離婚、解雇など、誰にでも起こりうる突然の喪失感が人を無力にし、ごみ屋敷を生み出してしまうことも多いそう。

 こうした事実を知ってもなお、あなたは「自分の家は絶対にごみ屋敷にはならない」と言えるだろうか。

 ごみ屋敷化してしまった現場の中には、ペットが残されたままになっていたケースもある。そうした現場の多くは多頭飼育だ。床にはペットの糞尿が山となり、悪臭が漂っていたこともあるそうだ。

写真:加藤甫
▲本書p.105より/写真:加藤甫

 動かなくなってしまった飼い主に対しペットたちは何を思い、そしてどう死んでいったのだろうか。自分の命だけではなく、人生を共にしていたはずのペットまでも巻き込んでしまった孤独死の現場は、思いをめぐらせると一層切なく感じられる。

 自分の「死」についてきちんと考え責任を持つこと。容易ではないが、それは悲惨な現場を生み出さない対処法だ。

■孤独死の現場に現れる自称・友人たち

 孤独死の現場はひっそりとしているように思う方も多いだろう。だが、現実は逆で、「故人の友人」と名乗る人が次々と現れるケースも多いそう。「生前に約束していたから」などと申し出て、思い出の品や貴重品を奪っていく。汚物以上に汚い、人間の裏の顔もまた本書に描かれるエピソードで浮き彫りになる…。

 こういった辛い現実が待ち構えているということを知っておくと、「孤独死」への意識は自分に関わる問題として変化する。自分の死に方は、自分でも決められないことが大半だ。だが、精巧なミニチュアを通じてあなたが得た“感覚”は、あなたの死生観を変えていくのではないだろうか。

文=古川諭香