「どんぶらこ」と聞いて思い浮かべるものは? ことばの歴史をさかのぼると意外な事実がわかる!

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更新日:2019/12/31

『日本語をつかまえろ!』(飯間浩明:文、金井真紀:絵/毎日新聞出版)

 人間がAIに打ち勝つには、読解力が鍵になるといわれている。読解力を高めるのに欠かせないのが、母国語力…つまり教科では国語の力だ。しかし、将来を担う子どもたちすべてが国語を好きとは限らない。好きになるには、まず興味をもつ必要がある。

『日本語をつかまえろ!』(飯間浩明:文、金井真紀:絵/毎日新聞出版)は、国語辞典編さん者の著者が、子どもたちのために日本語のおもしろさを詰め込んだ1冊だ。大人も知らない日本語のよもやま話に、親も子どもも惹き込まれる。

 第1章の「響きとリズム」を開いてみると、誰もがよく知るあの表現について書かれている。

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「どんぶらこ」はモモ専用なの?

「どんぶらこ」といえば流れてくるのはモモである! と言い切れるくらい日本人に浸透した表現だが、本書によるとモモに限らない。昔話の「うりこひめ」では「どんぶらこ」とウリの実が流れてくるし、江戸時代の本では、ものが水に飛び込むなら「どんぶらこ」と音がする。宮沢賢治の名作のひとつ「風の又三郎」のもとになった「風野又三郎」では、波の音が「ドンブラゴッコ、ドンブラゴッコ」と表現されている。

 海外の人が日本語を勉強するときに、困難を極めるひとつが、日本語特有のことばの響きやリズムである。八百万の神が住まう日本では、自然界のさまざまな物事に、それを表現するための擬音語や擬態語がある。子どもたちは授業中に友達と「ぺちゃくちゃ」と話し、下校時に「わいわい」とお喋りする。雨は「ざあざあ」、雪は「しんしん」と降る。いずれも、本当はそのとおりの音は出ていない。

 このように、森羅万象に音が充てがわれている擬音語・擬態語を昔にさかのぼると、最も古いもののひとつであろう表現が、日本最古の歴史書『古事記』の中に見つけられる。

 それは、「こおろこおろ」である。何を表現する音か、あなたにはわかるだろうか。

「こおろこおろ」は、イザナギノミコト・イザナミノミコトが、海の中にほこを入れてかき回す場面で使われる。本書によると、これは現在の「からから」「がらがら」などに当たる。ちなみに、同書の別の話では、ネズミが穴の様子を「内はほらほら、外はすぶすぶ」と表現している。「ほらほら」は中が大きな様子を、「すぶすぶ」は入り口がせまい様子を表しているという。

 しかし、現在は「こおろこおろ」も「ほらほら」「すぶすぶ」も使われていない。擬音語・擬態語は、誕生と消滅を繰り返しているのだ。現代でも、身近なところで新しい音は生まれ続けている。例えば、21世紀になる頃から広まった「(ズボンが)ぱつぱつ」、近年見聞きするようになった「ふわとろ」、長い髪などが広がる「ふぁさっ(と)」、など。いわれてみれば、いつの頃からかしぜんと私たちの生活に溶け込んでいる表現は少なくない。

 本書はこのほか、しりとりを有利にする秘策、ことばの頭につく音で一番多いものなど、親も子どもも思わず「へえ」と声が出そうな話が紹介されている。

 身近にあることばのおもしろさに気付けば、国語がいっそう好きになり、将来をたくましく生きていくための読解力を伸ばしていけそうだ。

文=ルートつつみ