カマキリの交尾が残酷なワケは…?『池の水ぜんぶ抜く』加藤英明氏の1冊が、動物の生態を学びながら小説集としても楽しめる!

スポーツ・科学

2020/1/11

『ありのままに生きてます 見習いたくなるいきもの物語』(加藤英明、秦本幸弥/KADOKAWA)

 ナマケモノやクマノミ、クラゲにパンダ。さまざまな動物たちの生態を描いた『ありのままに生きてます 見習いたくなるいきもの物語』(加藤英明、秦本幸弥/KADOKAWA)。

 表紙のイラストとタイトルから、動物の生態を学ぶ図解の児童書と思う人も多いだろうが(実際その要素は多分にあるのだが)、メインは動物たちの目線で描いた7つの短編小説。これがなかなかにシュールで含蓄が深く、動物に興味がない大人でも、小説を読むのが好きならぜひ読んでほしい一冊である。

 個人的にいちばん気に入っているのは第2章のカマキリ。昆虫界きっての肉食系カマキリ女子・貴理子の夢は、たくさんの子供を産んで育てること。そんな彼女に一目惚れしたのが草食系カマキリ男子の鎌助だ。「子供は三百匹はほしい」という鎌助のプロポーズを受けた貴理子。2匹はさっそく本能のままに結ばれる……のだけれど。

 一度は聞いたことがあるだろう、カマキリのメスは交尾中にオスを食べてしまうということを。理由は、オスを食べることでメスの産む卵の数は2倍以上に増えるから。「三百匹欲しいって言ったよね?」と交尾中に確認し、同意した鎌助を食べて「いっぱい元気な卵を産んであげるね」と約束する貴理子。それがカマキリの生態であり、種全体が生き抜くための知恵であるのは間違いない。両者の目線で語られるだけにその描写はなかなかサイコであるが、1編の上質なミステリー(ホラー)小説を読んだような気分になった。

 ほかにも、たとえば1章では、腕や背中にコケが生えるほどのんびり過ごし、なんならそのコケを食べてやりすごすナマケモノが主人公だが、なぜ彼らが焦らないのか、慌てないのか、その理由が非常に説得力をもって描かれるし、排泄のためしかたなく木をおりたところ天敵ジャガーに襲われる描写は、かなりの臨場感がある。切ないのは第4章のホッキョクグマ。飢えが原因で自分の子供に手を出してしまうことがあるそうなのだが、それは北極の水が溶ける夏の約三か月、氷上での狩りができず断食状態が続くから。飢えの苦しみのなか生きのびたい一心で子供を襲いかけてしまったホッキョクグマの葛藤が真に迫るだけに、子供が読めばきっと、過酷な夏を長引かせる原因となる地球温暖化への意識も自然と高まるに違いない。

 秀逸なのはエピローグのヒト。最後に人間の子供の目線で物語を締めくくることで、動物の生態だけでなく、同じ人間のなかにも多様性が存在することを教えてくれる。学校に行くのがいやでしかたなかった少年が「学校って動物園みたいなのかも」と動物に共感し、他者に目を向けるまなざしはとてもやさしい。「ありのままに生きる」というのはときにままならなさの裏返しでもあるけれど、こんなふうに優しく背中を教えてもらえれば、子供も大人も少しは生きづらさが和らぐんじゃないだろうかと思う。

文=立花もも